テント

15/01/04
本当にあった話。

オレってばアウトドア好きなんだけど、その中のひとつに逃避旅ってのがある。年に一度、夏になったら自転車にテントを積んでひたすら走る旅のことだ。

現実逃避なのでもちろん目的地はない。行き当たりばったりなので、これまでいろんな所で野宿をしてきた。そんな旅の中で体験した、怖い思い出。

俺がまだ二十歳そこそこの頃。お盆休みを利用して逃避旅に出た。テントに寝袋、必要なものを全部ロードバイクにくくりつけ、オレはひたすら走った。

どんどん街からは離れ、夕方になる頃にはもうすっかり山の中だった。そろそろ野宿ポイントを決めようかなと思い、オレは近くにある湖へと向かった。

そこは県内でもそれなりに有名な観光地なため、湖のそばには食堂や売店もある。ちょうどいいや。と俺はそこで飯をすませて、テントを張ろうと人気のない山の方へと向かった。

観光地とは言っても夜になると無人になる。ましてや少し離れると本当に静かだ。俺は早々にテントを張り、寝袋へともぐりこんだ。

その夜、ふと目が覚めた。たしかまだ夜中の1時ぐらいだったと思う。寝付けそうになかった俺は、仰向けのままボーッとしていた。

キャンプ経験者ならわかると思うが、夜の山ってのは独特の雰囲気がある。日常生活では決して味わえない感覚なんだけど、その夜はどこかおかしかった。

真夏だというのに、虫の声ひとつない。(なんか気味悪いな~)と思っていたその時。誰かがテントを押した。

ヌッと外からテントを押す手が月明かりに照らされて見えた。(おおっ!?)と声が出そうになるが、必死に押さえる。頭のおかしい奴か?と俺は身構えた。

起きてるとバレたら、何をされるか分からない。手の主は、ひとり言のような、うめき声のようなものを上げながらテントの周囲を徘徊している。そして手でまたテントを押す。

(勘弁してくれ...)と思ったその時、またひとつ気付いた。テントを張った場所は山。地面には草が生え、木の枝もたくさん落ちている。

だけど、足音がいっさい聞こえない。聞こえるのは声だけ。そんなのありえない。それに気がついた時、どっと全身から冷や汗が出た。

えたいの知れないそいつは、こちらをうかがうようにしてテントから離れない。息づかいですぐ近くにいるのがわかる。俺は必死に声を押し殺して、朝になるのを待った。

あたりが明るくなる頃、気がついたら奴の気配がなくなっていた。俺はかつてないスピードでテントを回収して帰った。

後になってから複数人いたような気がするけど、もうどうでもいい。

とにかく、山というのは不思議なことがたくさん起こる。皆さんも山に入るときは気をつけて。