父上の部屋へシャーペンの芯を失敬しに(買えよ)行ったとき本を見つけた。
「ぷっ、『演説に使える小話集』だって。なんじゃこりゃ」
その本に収録されていた話にこんな一編があった。
アメリカ南部の町、一人の警官が辺りを巡回していた。
一通り見回ってそろそろ帰ろうとしたとき、前を歩いてくる男に気がついた。
ひっきりなしに首を動かし、くぐもった声でブツブツ何か呟いている。
あきらかに挙動不審である。
薬をやってる変質者でなければいいのだが・・・
念の為職務質問をしてみようと思い、警官は男に声をかける。
男が止まったのを確認し、近寄ろうとしたそのときだ。
男がニヤニヤした笑いを浮かべ、上着の裏ポケットに手を突っ込んだではないか。
殺られる!!
警官は咄嗟に拳銃を抜くと、何のためらいもなく男に向けて発砲した。