俺の親父の田舎は、60年代初頭まで人食いの風習があったっていう土地だ。とはいっても、生けにえだとか飢饉(ききん)でとかそういうものではなく、ある種の供養だったらしい。
鳥葬(ちょうそう。遺体を鳥に食べてもらう葬儀のこと)ならぬ人葬かな。それは小さな神社で行われてたとのこと。
そこの神主さんが亡くなった人の脳だとか脊椎だとかをすすり、その人の魂(心?)を受け継ぐんだって。で、イタコの真似ごとをして、残された家族とかに故人からの言葉を送るっていう寸法。
気味が悪いように聞こえるけど、それほど殺伐としてようなものじゃないみたい。
しかし、先に言ったように、だいたい60年代を過ぎるころになると、さすがにそのような風習もすたれてきた。
ちょうどその頃は、その神社の神主を息子さんが受け持つようになっていたし、法律とかそういう問題もあったから、ちょうど世代交代の時期だったのかもしれん。
だがそれでも村の爺さん婆さん連中は、ご先祖様と同じように逝きたいと、この葬送(そうそう)を希望していた。そのため、新しい神主さんも嫌々ながらそれを引き受け、数年の間死体の脳をすすったらしい。
多分これがいけなかった。