赤
12/06/01
25年ぐらい前。俺が小学校に上がる前の話。

上野の動物園に両親と遊びに来ていた俺は、ひとしきり遊び終わり家に帰る途中だった。

それを見た場所は京成上野駅。

券売機と改札があるホールは半地下になっていて、微妙に薄暗かった。そしてラッシュ時ということもあって、まだ背の低かった俺の眼前には、帰宅客のクツがすきまなく踊っていた。

そんな中、俺は奇妙なものを見る。赤い毛布の塊のようなものだった。

その固まりは帰宅を急ぐクツに蹴られ、踏まれ、散々な様子でのたうちまわっていた。

俺は動物園に行ったばかりなので、何かの変わった動物かと興味津々でそれを目で追っていた。両親は切符を買っていてそれに気が付かない。

その毛布の動物は赤い汁をまき散らしていて、ますます俺の目を引く。しかし、その様子に注視しているのは俺だけだった。

やがてそれは柱を背にしてクツから逃れた。

そして俺の視線に気がついたのか、それは頭をにゅっと出すと、針金のような毛の間からのそっと目を覗かせて俺を見たんだ。

人だった。ものすごいケガをしていた。血が、血が止まらず流れていた。

いったん人と認識すると、傷ついた四肢を認識することができた。俺はどうしていいかわからなかった。傷ついた人を見たのは恐らくこれが初めて。

俺は両親に助けを求めたが、両親の視線の高さには彼は映らなかったらしい。

また俺が変なものに気を引かれたと思ったのか、早く行くよと俺の手を引き改札をくぐった。

彼はすぐに俺から視線を外し、興味なさそうに柱にもたれかかってうずくまった。

俺は泣いたが、状況を親に説明できなかった。何より、彼をゴミのように踏みつけて歩いているクツが怖かった。

俺の視線がクツの持ち主たちと同じでなくてよかった。彼らの顔を見ずにすんだのだから…

以上、オカルトでもなんでもないけど怖かった話。