森の人
12/06/28
それはおじいがまだ子供の頃の話。逆算するとだいたい終戦直後くらいかな。

場所も言ってしまうが、沖縄は宮古諸島の伊良部島(いらぶじま)という小さな島。

その当時はおもちゃなんて物はもちろんなくて、サザエのフタやら米軍が落とした爆弾の破片やらを遊び道具にして、海やら森やらで遊び回っていたそうな。

小さな島なので遊び場は少なく、やがて行動範囲は大人たちが「行くな」と念を押す森の奥にまでなっていった。

その日も友達数人と一緒にサトウキビを咥えながら森の中を探検していた。すると、大将格の一人が「なんか声が聞こえる」と言い出した。

よく耳を澄ますと確かに、どこか遠くで何かが鳴いている。奇妙に思いながらも皆、声の方向へ一直線に進んで行った。

だいぶ声が近くなって来た所で先頭を歩いていたガキ大将が急に立ち止まった。その視線の向こうには、何かこんもりとしたモノ。探検隊は慎重な足取りでそれに近づいていった。

「ィィィイイイ!ィィィイイイ!」

不気味な声で泣きわめくそれは、よく見ると赤ん坊だった。それも血塗れで、頭が大きくひしゃげ、真っ赤な目玉が両方とも飛び出していたそうだ。

その上、その赤子の周囲にはたくさんの蟹やオカヤドカリが群がり、赤子の肉や皮をついばみ、引っ張っている。

その異常な光景にしばし言葉を失くして立ちすくんでいたが、やがてガキ大将を先頭に森の出口に向かっていっせいに走りだし、転がるようにしてやっと家についた。

その時の誰一人として、その出来事について親に話したりはしなかったそうだ。

昔の沖縄は火葬ではなく風葬が行われていた。お墓の中に死体をそのまま置くのだ。だが、生後10日以内の早死の子は魂のアクマの子とされて、そのまま森や洞窟に捨てられてしまう。

アクマの子の魂がまた戻って来ないように、次はまともに生まれ変わるようにと、そういった思いが込められているのだそうな。