廃墟
14/05/21
昔、とある施設で研修をした時のこと。

よく話し相手になってくれる、Aさんという50代の男性入所者さんがいた。Aさんは穏やかな人で、私が病気の親の面倒を見てる話をすると、色々はげましてくれた。

Aさん自身は、幼い頃に両親と兄妹をいっぺんに亡くしたとのこと。

家族は大切だよね、大変だろうけど親孝行できるのは幸せだよ、と言ってくれた。Aさんとは出身地も同じで、よく地元の話で盛り上がった。

ある時私は、何のはずみかは忘れたけど、地元の心霊スポットになっている廃屋の話をした。いつも穏やかなAさんの表情が、その時一瞬とても険しくなって

「君はその廃屋に行ったことあるの?」

と聞いてきた。
私は、

「いえ、私は心霊スポットとか肝試しとかは嫌いなんで。しかもそこでは、肝試しに行った人が大ケガしたらしんですよ。何でそんなところに行くのか理解できませんよね」

と答えた。するとAさんはホッとした表情になって

「そうだよね。肝試しなんてする連中の気がしれないよ」

とうなずいていたがそのうち、

「うんうん、ああいう、肝試しなんて言って荒らしに来る連中はクズだ、あいつらはクズだ」

と、急に人が変わったようにつぶやきだした。私は驚いて、Aさん?Aさん?と呼び掛けたんだけど、Aさんは上の空で

「…心霊スポットだと?人の魂を何だと思ってる、ゲラゲラ笑いやがって。何の罪もないのに、殺されたあげく笑い物にされなきゃならんのか。ふざけるな、糞野郎どもめ。あいつらは殺されて当然だ。女はお〇してやった、ざまあみろ!!!」

異変を察した職員が飛んできて、Aさんは静養室に連れて行かれた。私はスーパーバイザーからこっぴどく叱られた。

あとから聞いた話では、Aさんの家族は強盗に皆殺しにされ、空き家になったその家がのちに心霊スポットと言われるようになった。

大人になって久しぶりに家に訪れたAさんが、肝試しに来たDQNとトラブルになり傷害致死とのことだった。