ストーカー

06/11/24
少々長い話しになりますが私の不可解体験を書きます。

「僕のお母さんですか?」

登校中、信号待ちでボーっとしていると突然となりの男が言った。

当時私は20歳の大学生、妊娠・出産経験はない。それに相手は明らかに30を超えていた、ビックリして

「ひっ…人違いです」

と答えると相手はその答えが以外だったかの様な反応で、何でそんな嘘を付くの?と言った表情だった。その反応に私が驚いた。

信号が青になると私は急いでその場を去りました。

こんな事を言っては失礼だが障害者っぽい雰囲気で、ガリガリで目はギョロッとしていて、よれよれのシャツに肩から黄色いポシェットを下げていた。

これが彼との最初の出会いで、この後数年に渡って何度も彼と遭遇しました。

その日から彼は毎日その場所で私を待っていて、必ず「僕のお母さんですか?」と聞くのだ、「違います」そう一言言えば去って行ってくれるので、気味は悪いが「警察」と言う程でもありませんでした。

しかしいつの日から大学にまで現れるようになり、私は彼にきつく怒鳴りました。二度と現れるなとか気持ち悪い、とかそんな事を言った気がします。

それからは現れる事もなく、東京の大学を卒業して実家へ戻り1年が過ぎたとき、東京の友人から久々に電話があった。

「あんたのストーカー男こないだ大学の近くで合っちゃってさぁ「お母さんはどこですか?」って聞かれて、恐くて逃げちゃった」

と言う内容でした。

その話を聞いても「ああそんな男もいたな」ぐらいにしか感じず、こっちには関係ないと思っていたのに、次の年の母の日、玄関にしおれたカーネーションが置かれていました。

私は瞬時にあいつだ!?っと思い、恐くなって父に相談し警察に行ったが相手に去れません。被害と言った事件もなかったので当然と言えば当然なのですが、私は不安で仕方がありませんでした。

そして数カ月がたった雪が積もる夜の事です。私は街の歩道を歩いていました。突然車がスリップし玉突き事故に巻き込まれたのです。

一瞬意識を失い、次に気付いた時は車と倒れた木のすきまでした。体中が痛くて身動きがとれず声を上げても、周りは騒々しく誰も私に気がついてくれません。

隣では火も上がっていてもうダメだと思ったとき

「おか~さ~ん、おかあさ~ん」

あの男の声がしました、私は思わず

「ここ!!助けて!!ここにいるの!!」

と叫びました。彼も事故に巻き込まれたのか血まみれでした。雪をかきわけ私を引っぱりだしてくれた彼を改めて見ると、彼の方が重傷に見えとても痛そうだったのに彼は私を見て笑って

「お母さんですか?」

と聞きました。私は何とも言えない気持ちになり

「…うん……うん」

とうなづきぽろぽろと涙を流しました。涙をぬぐい顔をあげると彼の姿はそこにはありませんでした。ほんの一瞬で消えたのです。

それっきりもう何年も彼を見ていません。いったい彼が何だったのかは分かりませんが、幽霊と言う物ではないとは思うのです…

雪が降ると時おり思い出します。名も知らぬ息子の事を。