74d030f9-s

406 :和菓子屋の取材1/7:2006/06/21(水) 10:11:58 ID:6+qgGGy70
私は編集者をしており、主にイベントや食べ物屋さんなどの紹介記事を書いています。
こちらから掲載をお願いする事もあれば、読者からの情報を参考にしたり、
その他お店からハガキやFAX、電話などで掲載以来を受ける事もあり、
その場合、なんとなく興味がわいたら取材に行くという感じ。
お店を選ぶ基準は、このお店なら色々書くことありそうだな~、
こっちのお店はなんかいまいちだな~、といったフィーリングによるものが大きいです。


ある日、締め切り明けで暇になり、みんなどこかに遊びに行ったり、得意先まわりに行ったりで、
編集部からほとんど人が消えました。
私は特に行く所もなく、何か面白いことないかな~と、その日届いた読者からのハガキを眺めていました。
その中にあった一通の封筒の中には、1枚の写真と便せん。
写真にはいかにも老舗って感じの、古めかしい和菓子屋さんが写っていました。



407 :和菓子屋の取材2/7:2006/06/21(水) 10:12:57 ID:6+qgGGy70
便せんには、なんだかインクのしみというか…
書いて乾かないうちにこすってしまったような…
とにかく汚い字で、『おいしいですよ ぜひ来てください』と書かれているだけです。
なんだか気味が悪かったんですが、逆にちょっと興味を引かれ、
暇だしのぞくくらいならいいか、という気分になりました。
『来てください』というなら恐らく自薦だろうと、
便せんに書かれた住所を見て、だいたいの位置を把握しました。
…いつもは道路地図やネットで(最低でも店の名前くらいは)調べてから行くのですが、
その時は暇だったのもあり、なんだか調べるのが面倒にだったんです。
見つからなければそれでいいや、くらいの軽い気持ちで出かけました。



408 :和菓子屋の取材3/7:2006/06/21(水) 10:13:49 ID:6+qgGGy70
1時間ほど車を走らせ、目的地周辺まで到着した私は、
近くにあったスーパーに車を止め、そこからは徒歩で探す事にしました。

写真を見ながらてくてく歩く事、十数分。
だいたいの住所はこの辺だな…と見回すも、
そこは閑静な住宅街といった感じで、和菓子屋さんなんてありゃしません。
裏道かな?とわき道にそれると、一軒の(恐らく)空き家がありました。
雨戸は閉められ、庭は荒れ果て雑草が生い茂り、一目見ればわかるじめっとした雰囲気。
なんだか気持ち悪くなり目を逸らすと、突然上の方から視線を感じました。
はっとその方向を見ると、2階の一室だけ、雨戸が閉められていない窓がありました。
まさか人がいるのか…と、余計に気味が悪くなり、早々にその場から立ち去りました。



409 :和菓子屋の取材4/7:2006/06/21(水) 10:14:31 ID:6+qgGGy70
しばらく周辺を歩くも、やはり写真のお店は見つからず、
そのまま少しはなれた商店街まできてしまいました。
私は近くの雑貨屋さんに入り、ジュースを買うついでに店主のおじいさんに写真を見せ、
詳しい場所を聞いてみました。
おじいさんは、写真を見るなり怪訝そうな顔でしばらく考え込み、思い出したように言いました。
「ああ、これ、○○さんとこか!で、あんた、この写真どうしたの?」
「あ、私Aという雑誌の編集者なんですよ。それで、そのお店の取材に行こうと思いまして。
 写真は、そのお店の方が送って来てくれたんですが」
「んん?そんなわけ無いよ。この店、10年くらい前に火事おこして焼けちゃったから」



410 :和菓子屋の取材5/7:2006/06/21(水) 10:15:12 ID:6+qgGGy70
「え!?…お店の方は?」
「みんなそれで焼け死んじゃったと思うけどなあ」
「…それで今はその場所、どうなってるんですか」
「そのあと新しく家は建って誰かしら引っ越して来たんだけど…
 いや、まあ、その家族なんだかで長くしないうち引っ越しちまったから、いまは空き家だよ。
 しかしタチの悪いイタズラだなあ」
空き家…先程の家かもしれませんが、視線を感じたこともあり、確認するのが恐かったので、
おじいさんにお礼を言い、そのまま編集部に帰りました。

帰って来ていた編集長に事の経緯を話し、例の封筒を見せようとカバンの中をあさりましたが、なぜか無いんです。
どこかに落としたのかもしれません。車の中か?と戻ろうとすると、
「多分無いと思うよ、それ」と、編集長に引き止められました。



411 :和菓子屋の取材6/7:2006/06/21(水) 10:15:58 ID:6+qgGGy70
「5、6年前かな。俺が新人の頃さ、同じようなことがあったんだよな。
 そこに行ったのは、俺じゃなくて先輩だったんだけど」
「あ、そうなんですか。行ったのはどなたですか?」
「いや、もういない。取材に行ったきり帰ってこなかったんだよ。
 『××町の和菓子屋さん行くわ』ってふらっと出掛けたっきり。
 当時はけっこう大騒ぎになったんだよね。車ごと消えたから。
 先輩も車も、結局見つからなくてさ。
 で、俺は先輩が行く前に、その封筒も中身も見たんだけど、お前が言ってたのとだいたい同じ感じだったかな。
 先輩のは確か、『きてください』としか書いてなかったんだけどね。
 もちろん、いたずらかもしれないけどさ。気味が悪いよなあ」



412 :和菓子屋の取材7/7:2006/06/21(水) 10:16:45 ID:6+qgGGy70
…その後、車の中を探しましたが、あの封筒は見つからず…。
誰があの封筒を送って来たのか、なぜその先輩が消えたのか、私が呼ばれたのはなぜなのか…
結局わからないままです。
それから3年たちましたが、郵便が届くたびにあの封筒が来ないか、ビクビクしています。


引用元:http://toro.2ch.sc/test/read.cgi/occult/1631828149/