016horror0523_TP_V

618 :618:2006/09/06(水) 00:25:13 ID:tef7yZdE0
もう随分と前に亡くなったウチの爺さんなんだが、変にと言うか、オカルト方面になんか詳しかった。
ついでに数学にも長けてて、俺はよく教わった。(これは多分関係ナイ)

爺さん曰く、「あーゆー手合いは抽象的な説明が云々」との事。
んで、記号とか使って説明してくれたのよね。紙に書いてさ。
俺もオカルト関係が大好き……まぁ興味津々だったもんで、それで色々聞いてたのよ。解らないなりに。
爺さんもノってたし。あれはどう、これはどう?って。
それで、爺さんが一つのお話をしてくれたのよ。これはそんな話。




620 :618:2006/09/06(水) 00:30:34 ID:tef7yZdE0
人には本能がある。まぁこれは誰もが知っていることだ。
でも、それも時代を経ていく毎に随分薄くなってしまって、所謂退化してしまったらしい。
その退化してしまったモノの中でも、今でも強く残っているのがあって、
人間の『危機を察知する本能』が挙げられるんだと。
あ、ヤバイって思うと、大抵それが惨事にぶち当たったりするやつ。
まぁ人間も動物だから、そう言うのが強く残っていて当たり前なんだが、
爺さん曰く、「目に見えないものでも本能が回避するんだ」と。
だから、オカルトオカルトって言っても、大体のヤツが認知しないし、遭遇もしないから認知されない。
言ってる奴が基地外扱いされる。
そりゃそうだ。
そんなのに毎回毎回遭遇するのは、相当運が悪いか、もしくは『遭遇する事を自分から望んでる』奴、
あるいは『遭遇する事が予め決定している』奴、なんだそーで。
遭遇しないのが当たり前だし、そう言う“脅かす”のとは縁を繋がないようにして、安全を図っているらしい。



621 :618:2006/09/06(水) 00:35:20 ID:tef7yZdE0
でも人間、好奇心が強い。自分が知らない世界を視たがり知りたがる。
わざわざ回避してるのにも関わらず、自分から遭遇したがる。
爺さんはここまで言って、「ワシもそうじゃ」と呟いた。
でも俺には、「お前は賢いから口にせんし、縁も繋ぎたがらんのぅ」って言う。
オカルト好き、てか怖い話が好きな俺に、それはどうかと言ってやったのよ。
すると爺さん反論。
「何故霊能力者とか言ってる奴等が、自分が見た拙い災厄や悪霊なんつーのを口にしたがらないのか解るか?
 ふつーに考えてやったんなら、教えてやった方が親切じゃろ?よー考えてみぃ、違うか?」
まー確かにそうですな。うんうん、と俺は頷いた。
「理由は二つある。一つは、そういった災厄や悪霊を自分に招かない為じゃ。
 口にするだけで縁(えにし)は繋がる。未だ方向性が決まらぬ悪意や憎悪は、繋がれた道を歩いてくる。
 そうして辿り着くと、苦しみを撒き散らすのじゃよ。
 似たようなモノに“じゅ”(多分『呪』と書いて『じゅ』と読むんだと思う)があるが、
 そう言うのは、己の悪意を直接相手に繋ぐ。そうして相手を苦しめるわけじゃ。
 これが強すぎると、相手は散々苦しんだ挙句に死ぬ。
 じゃが、繋いだ縁を渡って自分に返って、自分自身も死んでしまう。
 これが人を呪わば穴二つの意味じゃよ。
 その苦しみは、殺した業を含めて倍になる」



622 :618:2006/09/06(水) 00:41:41 ID:tef7yZdE0
なるほど。そう言うことなのかと、俺は納得した。
「そしてもう一つ」
俺はゴクリと唾を飲んだ。
「業を招く」
「それって……どういう意味なん?」
「旅は道連れ、世は情けと言うじゃろ。要するに、連帯責任じゃ。
 その苦しみ、その責め、その業を分かちあってしまうということなんじゃよ。
 そんなん、視るだけの奴にゃ手に負えんし、関わったばっかりに死んじまうこともある。
 なまじ理解しちまうせいでな。
 だから、本当に力の在る奴しか口にしちゃいかんし、そう言うのを生業にしてる奴らもわかっとる。
 だから口にせんのじゃよ」
「爺ちゃんにゃあったん?」
「ワシにゃ無い。無かったが理解できる。なんとなしに……お前と一緒でな。
 だから、考えても口を利くな。招くぞ。神も妖も霊も同じ。言葉は一つの呪いと考えとけ。
 口を利けば、彼岸の向こう側から縁を結んで招かれる。
 古くから、人に都合の良い神を招くのは祝詞じゃしの」
おいおいマジですか。と、心の中で呟きましたさ。



623 :618:2006/09/06(水) 00:49:07 ID:tef7yZdE0
「でもな……」
ここで爺さん、妙に神妙な顔付きになってしまいまして。
「理解するこたー悪いことじゃねぇ。それが救いになるこたぁある。
 だが一線越えちゃなんねぇ。ワシゃ知っておるからの。
 越えた奴ぁ……
 確実に死ぬんじゃああぁぁぁああぁぁあああああああああ!!!!!!!」



624 :618:2006/09/06(水) 00:54:58 ID:tef7yZdE0
んで、すげーわざとらしくコホンと咳払いしやがりまして、
「……例外は定め付けられ、仏の御心を持った人間だけよ」と締めくくった。

こん時の爺さん……怒ってるのか、泣いてるのか、笑ってるのか、いやきっと全部なんだろうな……。
例えようの無い顔ってこういうのを指すんだって。全身を恐怖の針で刺された感じで動けなかった。
ありえないぐらいのリアクションと大声が、小便チビリそうになるぐらい怖かったです。

「……ま、蛇足ではあるが。
 一度繋いだ縁は、双方が交わりを望まぬと誓わぬ限り切れん。それほど強いつーことじゃ。
 また招く、縁を繋ぐ、これは繰り返すことによって、より強くなっちまう。
 一度視た深遠を何度も覗く羽目になるというのは、こういうことじゃよ。
 何度も覗いた奴ぁ不幸だけが降り注ぐ。
 生きてる人間にゃ、真っ当に生きる資格があると同時に義務がある。
 その分を越えてはならんのじゃ。解ったか?○○(←俺の名前です)」

俺を脅かすだけ脅かして、ハッハッハと爺さん笑いやがりましたよ畜生。
俺的にはガクブルものでした。
喉がカラカラで何にも喋れなかったし、くそぅ。


引用元:https://hobby7.5ch.net/test/read.cgi/occult/1148030911/