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588: 聞いた話 03/11/17 01:01
台風による強風が吹き荒れた翌朝のこと。
一人の男が、自身の所有する山林の様子を見るために山の奥へと車を走らせた。
が、目的地まであと少しというところで林道は寸断されていた。
山崩れによる土砂の上に、強風で倒れた木々が幾重にも重なりあっている。
簡単には復旧できそうにない有り様に、男は諦めて引き返そうとした。
ところが、寸断された地点の少し手前に、奥へと向かう見知らぬ山道がある。
人が一人やっと通れるくらいの細い道だったが、どうやら迂回できるようだ。
男は、その道を通ってようやく自分の山へと辿り着くことができた。

山は酷い有り様だった。
倒木が至る所に転がっており、かろうじて立っている木も殆どが途中で曲がっている。
男は、翌週から山を復旧すべく作業を始めた。
倒木は寸断して積み上げ、曲がった木は引っ張って元通りにする。
周囲の山林も似たような状況なのに、誰も復旧作業にあらわれない。
無惨な姿のまま放ったらかしにされている山を見る度に、男は心を傷めた。

そんなある日、台風被害に対する補助金の説明会が催され、多くの森林所有者が集まった。
その席で、男は隣接する森林の所有者を捕まえて問い質した。
「なぜ、倒れた木々を放っておくのか?あのままでは山は荒れ果てる一方だぞ」
「何だと?俺はちゃんとやっているさ。お前の方こそ何時まで放っておくつもりだ?」
誰に聞いてもこんな調子で話が噛み合ない。
それなら一緒に行ってみよう、と何人かで連れ立って山へと向かった。

ところが、いつも通っていたはずの山道が見つからない。
「おかしいな」「ここにあった筈だが…」「痕跡すらないとはどうした事だ」
どうやら、各々があの山道を通って作業に通っていたらしい。
仕方なく、山の中を切り開いて奥へと向かった。
着いてみると、一帯の山林はどこも綺麗に復旧されている。
しかし、彼等は誰一人お互いが作業しているところを見ていなかったし、
昨日までは自分の山以外は荒れ放題だった、と主張して譲らなかった。


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