赤い人

362 :1/3:2008/08/28(木) 16:14:50 ID:LxxMb4Y+0
小学生時代の話。 

「体育館の地下に殺人鬼が棲んでる」て噂が流行った。 
そういう話に熱中していた俺、T、Sの3人組は、 
さっそく放課後の体育館に忍び込んだ。 
(当時体育館は空手などの習い事に夜間開放されていて、 
 クラブ活動が終わる夕方からしばらくの間、施錠されてない時間があった) 

舞台袖から階段を下りると、古ぼけた椅子が山と積まれた地下がある。 
こんな場所を懐中電灯の光だけで歩く時点で、小学生には十分な肝試しだ。 
とはいえここは学芸会などでも使用してる場所で、 
噂では、「この場所に隠し通路が存在し、先に地下2階がある」と続いている。 

俺たちは隠し扉を発見すべく、協力して椅子の山を崩す作業に取り掛かった。 
買い込んできた駄菓子なんかを食べて休憩しつつ、まあ秘密基地ごっこみたいな気分で。 

二時間くらいやってただろうか。 
もちろん扉なんてある筈もなく、習い事の連中がくるタイムリミットも近い。 
無駄骨に終わりそうな気配が見え始めたころ、S君が声をあげた。 
「こっち来て。この向こうの壁、なんか書いてある」 
見ると、確かに椅子の隙間から見える向こうの壁に、赤い線が見える。 
興奮した俺たちは、ほとんど投げるように椅子をどかしていった。 

果たして現れたものは、なんてことのないただの落書きだった。 
星型を逆さにして歪ませたような訳のわからない図形が、ペンキのようなもので書いてある。 
しかしこの発見に舞い上がった俺たちは、 
「アレは殺人鬼が書いたんだ」「殺した人の血だ」 
なんて話をしながら、この探検で味わったスリルと、 
一応の成果が出たことに満足して、帰路についた。 

その夜。 



363 :2/3:2008/08/28(木) 16:16:05 ID:LxxMb4Y+0
夕食後、だらだらしているとS君から電話があった。 
「ヤバイよ!俺、もう死ぬかもしれない!」 
錯乱した口調でわめき散らしている。 
携帯なんかない時代だ。夜、子どもが家に電話してくるだけで深刻な事態だった。 

「家の前に赤いヒトがいる!周りをうろうろして、入ってこようとしてる!」 
「親に言っても相手にしてもらえない。というか、視えてないみたいだ」 
「赤いヒトは2mくらいあって、目鼻口がないのっぺらぼう。動きは緩慢だけど、 
 なんかおいでおいでをしてるような動作をしてる」 

S君の話をまとめると、おおむねそんな内容だった。 
急に怖くなった俺はトイレの窓から階下を眺めたが、そこには何もいない。 
どこまで信じたものか図りかねるまま、俺はS君をなだめて電話を切った。 

翌日から、S君の様子が変わった。 
神経質にびくびくしながら、常に周囲を警戒している。 
俺と、昨夜同様に電話を受けていたT君はより詳しく話を聞こうとしたが、 
「赤いヒトがいる。今もどこかにいる」 
そう繰り返すだけで、イマイチよく解からなかった。 
俺たちはS君を気遣いながらも、出来ることなんてひとつもなかった。 

日に日に彼の状態は酷くなっていった。 
授業中や休み時間、ハッとあたりを見回したり、小さく悲鳴をあげることが多くなった。 
「いま、赤いヒトが校庭にいた」「赤いヒトが隙間から覗いている」 
後で話を聞くと、必ずそんな答えが返ってきた。 
見えないものは信じにくい。あるいは子どもの飽きやすさか。 
こんなS君を最初は心配していた俺らも、何日か続くうち、彼の言動にうんざりしてきた。 
そうして少しずつ周囲と距離が出来始めたある日、S君がまた悲鳴をあげた。 
「おまえ、赤いヒトと重なってる!」クラスの女子のひとりを指差し、そう叫んだのだ。 
授業中に暴れて逃げ出すS君。先生は怒り出し、女子は泣き出し、阿鼻叫喚だった。 
…俺とT君は、この日を境に彼から距離を置こうと決めた。 



364 :3/3:2008/08/28(木) 16:17:14 ID:LxxMb4Y+0
その数日後、指差された女子が交通事故に逢った。全治一ヶ月。 
S君はその報を聞くと貧血を起こし、学校を早退した。 
そして一週間、学校に来なかった。 
(親同士の噂で後から聞いた話、神経衰弱で入院していたらしい) 

オチが尻切れトンボみたいで申し訳ないが、 
その後戻ってきたS君と俺たちはほとんど話をしなかった。 
彼は元の明るさを取り戻しており、「赤いヒト」の話はタブーに思えたから。 
後に先生に聞いた話で「学校が元は火葬場だった」といった話もあるが、 
直接の関係はわからない。 

ただ、T君から一度だけ、その話をS君に振ったと聞いた。 
「赤いヒトって、まだ視えるの?」 
S君は曖昧に笑って、答えたと言う。 

「うん、いる。でもアレはもう招かないし、飲み込んだから」 

最後まで、訳の解からないことだらけだった。 

なんか長くなったな、ごめんなさい。 


引用元:https://hobby11.5ch.net/test/read.cgi/occult/1218289769/