海

401:本当にあった怖い名無し:2007/08/15(水) 07:09:29 ID:19QyoQ2l0
暗い海 
1/4 

小学生の頃、夏休みに家族で旅館に泊まりにいった。 
日程は3泊4日で、すぐ近くに海がある場所だった。 
俺はその間海ばっかり行ってた。水泳習ってたし、 
もう5年生だったから、親も俺が一人で行く事には、特に文句を言わなかった。 
ずっと一人で泳ぐのはちょっと寂しいものもあったけどね。 

何日目だったかな。夕方、日が沈む直前まで泳いでた。 
で、そろそろ帰ろうと思ったら、海から見えるはずの旅館がない。 
本当に、建物がごそっと消えていたんだ。 
なんだか嫌な予感のまま、荷物を持って旅館へと戻った。 
場所は間違えるはずもない。何回も往復しているのだから。 

旅館があった場所は、もはや残骸と化したグチャグチャの建物。 

木片や石がそこらじゅうに散らばっていた。 
俺は最初、何が起きたか全くわからなかった。 
そして、ふと、あるおかしなことに気付いた。 

海からここに戻ってくる間、誰かとすれ違ったっけ? 
否。 
そして、こんな状況、こんな状態の建物の周りに・・・ 
それどころか、近くの道に人一人居ない。 
車も走っていない。 
誰もいない。 



402:本当にあった怖い名無し:2007/08/15(水) 07:10:58 ID:19QyoQ2l0
暗い海 2/4 

「!!!!!!!!!!!!!!!」 

意味不明の恐怖で高鳴る心臓。 
荷物を手に取ると、一直線に海まで駆け出した。 
周りはもう暗い。何度も転びそうになった。 
昔から、変に冷静な子供だった俺。 
あの場所に留まるよりかは、 
開けた場所に行ったほうがいいと判断したのだ。 

本気で走ったため、海に着いたときは、本気で息が切れていた。 
両膝に手を当て、息を整える。 

何で何も無い?今まで俺が居た場所は? 
父は?母は?これからどうすればいいの? 

色々な事を考えながら、何気なく後ろを振り向いた。 
真っ黒な海の中が、明るく煌くのが見えた。 
旅館の光が反射していた。 
もういちど振り向くと、自分が泊まっていた旅館があった。 

(よかった!) 

安心が一気に押し寄せてきたと同時に、 
後ろの真っ黒い海が、騒ぎ始めた。 



403:本当にあった怖い名無し:2007/08/15(水) 07:11:51 ID:19QyoQ2l0
暗い海 3/4 

はっとして、反射的に後ろを振り向いた。 
自分から数メートルもない場所に、何か居る。 
旅館の光が多少なりとも海を照らしているため、 
そこにいる何かは案外すぐに判別することが出来た。 
人間だった。 

ジーパンをはき、シャツを着た女が、 
濡れた長い髪を振り乱しながら、 
それはもう必死に、両手で海を殴っていたのだ。 

静かな海の静寂は、バチャン、バチャン、 
という海を殴る音でかき消されていた。 

大抵、そこで気絶なんかするもんだろうけど、 
俺はそんな事出来なかった。さっきとは別の恐怖。 
ただ、体が固まって動けずに・・・とはならずに、 
荷物を手に取り、一目散に旅館へと走った。 
砂のせいで、走りにくいのが鬱陶しかったけど・・・ 
海を殴る水音は、消える事は無かった。 



404:本当にあった怖い名無し:2007/08/15(水) 07:12:33 ID:19QyoQ2l0
暗い海 4/4 

肺が潰れるんじゃないかと思うほど、俺の息は切れていた。 
それもそのはず、さっきも本気で走ったんだから。 
恐る恐る旅館に入ると、フロントに両親が居て、 
俺を見つけるなり、頭を殴ってきた。 
今まで何処に居たのか、と。探したんだぞ、と。 
それは俺の台詞だ。 

事は、俺が一人でうろついていたという事で収められた。 
今しがた体験した事など、誰にも話す気にもなれずに、 
結局俺は、残りの一日は、海に行く事は無かった。 
両親は、海に行かない俺を見て、怪訝な顔をしていた。 

後から考えても、海で見たあれは幽霊の類などではなく、 
確実に生きている人間だったと俺は思っている。 
ただ、旅館の消失については、納得のいく答えが出ていない・・・ 

俺と一緒に全てを見たはずの、あの荷物一式。 
その「最後の生き残り」だった水中メガネも、 
先日、親戚の子供へと譲られてしまった。 


引用元:https://hobby9.5ch.net/test/read.cgi/occult/1186503484/