田舎

07/03/16
今時の古民家風の内装の居酒屋で飲んでいたときに、友人から聞いた話。 

彼の祖父母は(多分東北か北陸の)小さな集落に住んでいた。 
近くに小さな温泉地があるが、あとはのどかな自然と田畑、
古びた民家が点在するような村なのだそうだ。 
以前は映画やTVのロケなんかにも使われたことがあるらしいが、
過疎化が進みほとんどが老人世帯となっている。 

その村が村おこしの一環として、その集落の民家も観光スポットとして、
温泉に訪れた観光客にも公開することとなった。 
お客がやってきたら縁側か居間に通して、村が支給したお茶やお菓子、漬物なんかを出して
ちょっと世間話をしてくれるだけでいいという。お年寄りたちも喜んでそれに賛同した。 

しかし実際にそれが始まってみると、想像していたものとかなり違う。 
まずは庭に洗濯物を干してはいけない。物干し台が撤去された。 
土間(台所)もステンレス製シンクは外され、新しく土を盛ってかまどが作られた。 
居間にあったTVやレンジ、炊飯器などの家電や工業製品の家具は全て一番奥の部屋に詰め込まれ、 
お年寄りたちは家の中の一番日当たりの悪い部屋が生活の中心になった。 
足腰が弱くなっても手すりのひとつも勝手にはつけられないのだという。 

友人の祖父母はその後、体が不自由になったこともあって、 
長年暮らしたその家を引き払い、介護付きの施設で暮らすことになった。 
友人の両親や兄弟たちは一緒に暮らそうと誘ったのだが、村から離れたくないということで、 
隣の町にある施設に入って、まもなく2人とも連れ立つように亡くなられたそうだ。 

数年後、友人は帰省も兼ねて祖父母の家がどうなったのかを見に行った。 
外観はほぼ昔のまま。柱は磨かれ壁も塗りなおしてあり、庭もよく手入れされていた。 
玄関には小さな木製の看板が掲げられ、そこには中年夫婦が住居も兼ねて喫茶店を開いていた。 

以前は都内で暮らしていたという作務衣姿のその夫婦は、そこでの生活を満喫しているようで、 
スローライフとかロハスとかエコロジーとか、そんなことを熱く語っていたらしい。 
友人はなんともいえない気持ちでその話を聞きながら、
破格の有機栽培コーヒーを一杯飲んで帰ってきたのだそうだ。 


引用元:https://hobby7.5ch.net/test/read.cgi/occult/1132139820/