登山

18/11/06
朝夕の冷え込みも一段と加わって参りました。

  生地が香川県で、三十路の頃より取り憑かれた単独登山の舞台は主に地元の剣山系、石鎚山系が殆どで偶に中央・北アルプス山系、道東の羅臼岳にも脚を向けました。

  まだ四十の本厄の後に剣山に足慣らしをした時の事です。

頂上神社に参り、お気に入りの次郎笈へと辿るべく西斜面の腰を掛けやすい岩で暫し休息、さて登り返しまでと下を見た時、使い込んだカーキ色ヤッケに古びたキスリングZの中年男性登山者が見てとれました。

何処へ向かうでも無いフラつく其れはどことなく不吉さが漂い、近づき難くもあってか反らして見ないようにしていました。

が、やがて剣山斜面を下り切り次郎笈への登り返しの小道で前方を見ると、登り口辺りにも右の丸石山へと辿る路にも見えません。

「はて⁉︎何処へ」思った瞬間、何やら胸騒ぎがして治らずに私は急遽縦走を取り止め下山を決めました。

右側のリフト駅へ向かう道は20分もかかりませんが、リフト駅に着く前唖然として仕舞いました。先程の男性が前方に指の先程位に見えていたのです。

僅か10分程であの距離をとれる筈が無いと訝しがる事しきり、何しろ後姿を僅かしか見ていないのです。

山麓駅へ到着し、先にリフトを降りた彼を確認すると私は車に乗り込み家路へと急いだ訳ですが、山麓駅の在る見ノ越から夫婦池までは幾つも蛇行した難路でいい加減に疲れますが、其れを越して貞光町へと下りる七つのヘアピンカーブの最初に掛かる時、前方から俯き加減で歩く男性登山者に気付きました。

擦れ違い様に唖然としたことですが、其れはカーキ色のヤッケに古びたキスリングZ、山麓駅で背後に居た例の不気味な男でした。

  単純にですが、私の背後に居るはずの男が何故に前から歩いて来るのか? 

車の運転し出しから既に20分以上も経っていて物理的に絶対にあり得ない事です。

そして運転する後部座席の不気味な気配…。山仲間から以前にも洩れ聞いた話が、丸石山避難小屋がまだ剣山寄りに在った昔、遭難者が小屋に辿り着く前に力尽き下半身だけ雪に埋もれて発見されたとか。

その装いがカーキ色のヤッケとキスリングZだったそうです。


投稿者:山幸彦様