六本木

18/01/13
20年以上前、大学2年生の冬。

六本木の喫茶店で変なセールスを受けた帰り、疲労こんぱいでバスを待ってたら、若い女が走ってきて時刻表を見るなり

「間に合わないじゃない!」

と叫び、タクシーに手を挙げながら車道に飛び出ていった。

そしたら走ってきた単車が接触し、転倒して女性を下敷きにしたまま数十m先へ流れていった。

運転手も腹からガードレールの支柱に突っ込んで、"くの字"に倒れてた。

バス停で並んでた人達はそれを見て「バカだなあ」と口々に話し、女性が乗ろうとしたタクシーの運転手も、現場を一瞥したあと無言で公衆電話へ歩いて行った。

疲れていて一瞬判断が付かなかったのだが、よく見たら2人とも全く動かないし、路面にはおびただしい量の血と、その女が持っていたカバン?の中身が散らばっていた。

我に返って駆け寄ったら、単車の運転手は体が変な方向に曲がっていたし、単車はエンジンがかかりっぱなしで、女性の太ももに当たった部分から煙が上がっていた。

大きな単車は一人で起こせず、エンジンを切って助けを求めようと後ろを振り返ったら、ちょうどバスが発車していくところだった。

10人以上いたのにバス停にはもう誰もいなかった。

自分の前で雑誌を読んでいた男が車内からこっちを見ていたが、目が合うとすぐにそらされた。

結局警察と救急が来て現場を片付けていったが、直後に目撃者として警察に聴取を受けたときも

「お前が突き飛ばしたんじゃないのか?」

「調べたら分かるんだからな」

などと暴言を吐かれた。翌早朝に家に帰されたが、結局警察から何も連絡はなかった。

まだ芋の心だった自分にとっては、全てが残酷だった。

花を持ってその場所に行ったら、家族とおぼしき手紙が添えられた花束が一つ置かれているだけだった。

あの単車や女はどこへ行くつもりだったんだろうとか、家族や友人はどう思っただろうとか、バスの乗客は何を考えていたんだろうとか、未だにそこを通ったり、六本木の名を聞いたりするたびに思う。


引用元:http://toro.2ch.sc/test/read.cgi/occult/1511055111/