06/11/20
子供のころ両親が共働きで、うちには幼い俺を世話してくれてた佐々間のおばちゃんと言う人がいた。
おばちゃんはちょっと頭が良くなかったせいか、仕事は持たず、自分ちの畑とうちのお手伝いで食ってるようだった。
おばちゃんの仕事は、学校から帰ってきた俺にご飯を作ることと、家のそうじ洗濯、あと、体が弱く入退院を繰り返してた婆ちゃんの介護だった。
ある日、俺が学校から帰ってくると、珍しくおばちゃんはいなかった。変わりにいつも寝たきりの婆ちゃんが起きていて、居間でお茶を飲んでいた。
おばちゃんが家にいるのが普通だったので、お婆ちゃんに
「今日はおばちゃんは?」
と聞くと、
「今日はまだ来ていないよ」
と言って、俺を二階に閉じ込めるように押し込んだ。
「今日は誰が来ても降りてきちゃいけないよ」
と言って、お菓子とぽんジュースを渡された。
「誰が来てもって、誰が来ても?」
と聞くと、お婆ちゃんは少し困ったような顔で「そうだよ」と言い、「シーっね」と口に指を当てながら襖を閉めた。
俺は大人しくコタツに入りテレビを見てると、6時近くになって薄暗くなってからおばちゃんの声が聞こえた。
二階と言っても狭い家。玄関に誰が来たかくらいは聞き耳立てなくても分かる。
「洋介君はまだ帰ってきておらんかねえ」
とおばちゃんが言うので、出て行こうかとも思ったが、婆ちゃんの誰が来ても降りてくるなと言う言葉を思い出し、そのままコタツでごろ寝を続けた。
おばちゃんと婆ちゃんのやり取りにしばらく聞き耳を立てながら、TVを見続けた。
またしばらくして佐々間のおばちゃんがやってきた。
「洋介君はまだ帰ってきとらんかねえ。三浜屋(俺がよく言ってた駄菓子屋)にもおらんようやが」
すると婆ちゃんが、
「今日はまだやがねえ。友達のところに遊びに行く言うてたから、遅くなるんやないかねえ」
と嘘をついた。
幼心に、俺はかくまわれてるのだとぼんやり悟り、息を殺してコタツに潜り込んだのを覚えてる。
日も落ちすっかり暗くなって、おばちゃんはまたやって来た。
「洋介君帰ってきたね?」
婆ちゃんは少しきつい口調で、
「まだよ。まだ帰らんよ。今日はもうご飯いいからお帰りなさい」
と追い返した。
しばらくして、8時くらいになって父母が帰ってきた。婆ちゃんがのそのそと階段を上がってきて、俺に
「もう降りていいよ」
と言ってきたので、俺はいつもよりだいぶ遅めの夕飯を食べた。
その晩、近所の竹やぶで、佐々間のおばちゃんが首を吊っているのが見つかった。
遺書には、
『希望がないのでもう死にます。一人で死ぬのは寂しい』
みたいなことが書いてあったらしい。
身寄りのないおばちゃんは、何を考えて俺を探してたのか。推測すると、ほんのり怖くてちょっと悲しい。
引用元:https://hobby7.5ch.net/test/read.cgi/occult/1162909657/
コメント
コメント一覧
これまで見たまとめの中で一番、素晴らしく絶妙な話だ。
戦中育ちは伊達じゃない。
おばちゃんは一日も待てないほど切羽詰っていたのか?
(翌日学校帰りの『俺』を捕まえれば良いのに)
アレは家で自殺していたけど
お前が帰って、どうぞ
草
なんとも切なく…そして切ない話ですね。
切ない…刹那の風になる。風になる…へそ吉でした。
甥っ子って…近所の人を雇ってただけで親戚じゃないだろ。身寄りがないって書いてあるんだから
「一人で死ぬのは寂しい」から洋介君を探してたんだよ
いつものようにお手伝いに来た様子ではなく
(家に上がらず玄関先で呼んでいる)
一向に来ないのでばあさんが起きて玄関へ……
生きた人間じゃないと気付く……みたいな
あらを探すなっちゅーに
「竹藪で首を吊った」のではなく、絞殺後に竹藪へ…
しかし時が流れおばちゃんがまた不安定になりつつあった、もしかしたら成長していく主に何らかの執着心を見せてたのかも、それを敏感に察知した婆ちゃんはやはり気のふれた女を孫の傍には置けんと何らかの被害が及ぶ前に遠ざけようとした
一方のおばちゃんもなんとなく婆ちゃんの態度が急に硬化したことを敏感に察知、過去は水に流れ信頼関係が築けていると思ってたのに結局狂人扱いされてるのだと気づき絶望
…真面目に考えるとこういう背景かな?とか思うけど、多分単純に「すんでのところで道連れを逃れた」っていう筋の作り話なんだろな
竹がしなって足が着くかもしれんけど、ドアノブでも成功するからなぁ。
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