モンスター
09/08/17
俺が中学の時、『神谷のおばさん』という有名人がいた。

同級生神谷君の母親なので『神谷のおばさん』なわけだが、近所はもちろん、同じ中学の奴もほとんど神谷のおばさん知ってるくらい有名人。

見た目は普通のおばさんなんだけど、とにかく話を聞くのも話すのも上手い人で、地元じゃ有名なヤンキーすら、

「神谷のおばさんに怒られちゃしょうがない」

って悪さ止めるくらい。

俺達中学生の下らない悩みとか、相談を真剣に聞いてくれたし、本気で怒ったりはげましたりしてくれる人だったな。

親とか先生には話せないことを、相談出来る大人って感じ。みんなの母ちゃんっていうか。

で、神谷のおばさんといえば『怖い話』。って思い出すくらい、怪談物が得意だった。内容はたぶんよくある怪談なんだけど、とにかく話し方が上手いんだよ。

めちゃくちゃ怖くて、女子なんかキャーキャー大騒ぎになるくらい。

そんな神谷のおばさんに関する話。

俺が中2の秋、クラスに転入生が来たんだよね。秋山君っていったと思う。田舎だったからあんまり転入生とかなくって、結構注目されてたような気がする。

背が高くて、顔立ちも整ってて、いかにも女に受けそうな奴だなぁってのが、俺の第一印象だった。

最初の頃はみんな、秋山の周りに行ってあれこれ世話してたんだけど、日がたつにつれ、秋山はみんなからさけられていった。

「犬に石ぶつけてた。犬がケガしても止めないの」

「猫をおもいっきり蹴って、猫がピクピクして身動きしないのを、踏みつけようとした」

もちろん担任の耳にも入り、注意されたみたいだけど、母親が乗り込んできて、

「学校で悪いことしてないでしょう!勉強だって出来るんです!(実際成績はトップクラスだった)犬猫に何したって、成績良ければいいじゃないですか!」

と大騒ぎしたらしい。今でいうモンペだったんだな、母親。

噂では、前の学校でも問題起こして、母親と学校が揉めたらしく、それで両親が離婚。母親の実家に戻って来たってことだった。

うちの母親が地元出身で、この秋山母のことも良く知ってたとかで、そんな噂も俺の耳に入ったわけ。

しかし、うちの担任は熱血漢で、はいそうですかとは引き下がらない。

「命の大切さ!弱いものをいつくしむ心!教育とは勉強だけじゃないんですよ!」

と、全面的に争う姿勢。日頃担任をうざがってたヤンキー連中すら、「全くだ」と応援してたのがおかしかった(笑)

とにかく秋山は怖かった。

ヤンキーとかの不良に感じる怖さじゃなくて、得体が知れない闇みたいで、本気でみんな怖がってた。

ある日、俺が神谷ん家に遊びに行くと、ちょうどおばさんと神谷が買い物に行くところだった。

近所のスーパーなんだけど、米やら重いもの買うから付き合うんだとのこと。なら俺も付き合うよと、三人でスーパーに向かう。

買い物中、秋山が少し離れた所にポツンと立ってるのに気付いた。秋山の家はここからだいぶ離れてる。ちょっと買い物にしては不自然だった。

俺は神谷の事をヒジで小突いた。神谷もすぐに秋山に気付いたみたいだった。

「何でこんなとこにあいついんの」

「知らねぇ」

ひそひそやってたら、おばさんが後ろからスッと顔出した。

「あれ、あんたが言ってた秋山君って子?」

とつぶやく。

「良く分かったな~」

と二人でビックリしてたら、

「アレはダメ。近寄らないでね。それしか方法がないわ」

それだけ言うと、おばさんは買い物に戻っていった。

今までどんな不良でも決して見捨てなかったおばさんの一言が、えらいショックだった。

「うちの母ちゃんがあんな事言うなんて」

と、神谷もかなり驚いたらしい。

それからしばらくして、秋山がパッタリ学校に来なくなった。でも誰も心配しなかったし、むしろこのまま来ないで欲しいという空気だった。

何回か母親が学校に乗り込んできて、

「イジメがあったはずだ!だから息子はおかしくなったんだ!」

と騒いでいた。

イジメはなかったけど、クラスで孤立していたのは事実だから、何かゴチャゴチャはしたらしい。

実は俺の家にも、秋山母が来たんだよね(笑)うちの母ちゃんのこと、向こうも知ってたみたいで。

「あんたの息子がイジメてたんじゃないのか」

「うちの子が出来がいいから妬んでた」

「どうせろくでもない息子だろ。お前の息子が狂えば良かった」

最初は穏便に追い払おうとしたうちの両親も、最後はかなりキレてたな(笑)

俺は何となく悲しかった。ああ、このおばさんも狂ってるんだなぁ…って。

三学期も終わり、春休みのある日、俺は神谷の家に遊びに行った。おばさんと三人でおしゃべりしてるうちに、ふと秋山の話になった。

実はずっと気になってたんだよね。なんで秋山に近寄らない方が良かったのか。

秋山は結局学校に戻らなかった。完全におかしくなっちゃって、今でも病院らしい。秋山母も、離れた病院に入れられたらしい。秋山祖父母は我関せず。

「あんなキ〇ガイうちの人間じゃないから、死ぬまで入院させておいてくれ」

と言ったとか。

そんな話と、家まで怒鳴り込みかけられた話との後、俺は神谷のおばさんに聞いた。

「結局秋山はなんだったの?」

おばさんは少し考えた後、

「人間ではない」

と答えた。

「一目見てわかったよね。もう人間じゃなかった。本当の秋山君は、たぶん普通の子だったと思うよ。

小さい頃から少しずつ食べられて、本当の秋山君はもういなくなっちゃってた。秋山君の皮の中に、ドロドロした念が詰まって、人間の形になってるだけ」

俺も神谷も驚愕した!今まで『怪談』は良くしてくれたけど、こんな霊能力者みたいな事を、おばさんが言ったのは初めてだったのだ。

「な、なんでそんなことになっちゃうの?!怖いよ!」

真剣にビビる俺(笑)神谷も真っ青だった(笑)

「親の因果が子に報い~ってやつかしらね?あの家のお祖父さん、何人も人死なせてる。

直接殺したわけじゃないけど、あのお祖父さんのせいで死んだ人がたくさんいる。秋山君のお母さんが歪んでるのはそのせい」

「でも、それじゃおさまらなかったから、秋山君までいっちゃったのね。死んだ人の恨みとか呪いが、まがまがしいモノを呼んで、秋山君は食べられちゃった。かわいそうに」

「そんなのないよ!じゃあ秋山悪くないんじゃん」

と神谷が言う。

「因果ってそんなもんなのよ。個人じゃなくて『血』に祟るの。親しい人とかね。あんたらも心しておきなさいね。そういうのには、人間の理屈は通用しないのよ」

神谷のおばさんは、最後こう言った。

「見てなさい、あのお祖父さんだって。さ~て、お夕飯のしたくしよっと!あ、木村くん(俺)も食べていきなさいね~」

と、おばさんは普通に台所に消えていった…

俺と神谷はすげぇ落ち込んでた(笑)だって、自分が悪くないのに、そんな目に合うなんて怖すぎる…

何となく、この話は誰にもしない方がいい気がして、(神谷のおばさんが変な人扱いされそうで)俺と神谷だけの秘密みたいな扱いになった。

俺も今や40近くなり、おばさんも亡くなったなったから投下した次第。

その後、秋山の祖父は病気になり、全身が麻痺。寝たきりになった。祖母は看病疲れで亡くなり、じいさんは施設に入れられた。

秋山祖父は昔は強欲な金貸しやってて、相当悪どかった、と後から聞いた。

じいさんが入れられた施設に、うちの母親の同級生が勤めていて、その人情報だと、全身硬直していて座ることも出来ない。それなのに痛みが止まらない。

いくら処置しても、とこずれが治らない。とこずれから感染して、色んな病気になる。それなのに死なない。「あれは生地獄だよ」と。

結局じいさんはつい最近まで、つまり20年近くそのままだった。

秋山母と秋山に関してはよく知らない。
生きているのか死んでいるのかさえ。
結局全て偶然なのかもしれない。

秋山祖父はただ性質の悪い病気になっただけで、秋山母と秋山は精神病を患っただけ。

だって、世の中には何も悪い事してなくても、病気や事故で不幸な目にあった人はいっぱいいるし。

それでも俺は、いまだに墓参りや法事には真剣に参加してる。ご先祖様ありがとう。みんなのおかげで俺は幸せに暮らしてます。と。


引用元:http://hayabusa.open2ch.net/test/read.cgi/livejupiter/1433168303/