山の中の家
13/07/14
ふと思い出したので書かせてもらう。

小さい頃、両親の仲が悪くて俺は母方の祖父母に預けられてた。子供が少ない村だったから一人で遊んでたんだ。

5歳くらいの秋だったと思うけど、いつものように婆ちゃんの昼飯食べて近くの野原で遊んでたら、ボールが草むらの中に入っちゃって、追っかけて行ったら迷ってしまったんだ。

草むらって言ってもすぐ近くに山があったからその中に入って探しに行ったんだけど、どうしてもボールが見つからないんだ。

気付いたら深くまで来ちゃったし、怖くなったから来た道を引き返して戻ることにした。

けもの道を登ってきたけど、婆ちゃんとキノコ狩りに来た事あった所だから帰り道は知っていたんだ。でもどうにも元いた野原に帰れなくて俺は泣きそうになった。

しばらくすると家が見えてきた。山の中のはずなのに立派な門のある古い家があったんだ。

電話を貸してもらおうと思って門から入ったんだけど、その家は村長さんでも住んでないような大きな家で、ただすごいなあと思ったのを覚えてる。

馬小屋があって大きな馬がいたし、池にはコイが泳いでたからね。

それで家の入り口に行ったら黄色いゴムボールが落ちてたんだよ、俺の探してたのが。

俺のボールって分かったのは、ボールにはひらがなで俺の名前が書かれた奴だったから何だけど(笑)

それでポケットにそれを入れて、ドアを叩いたんだけど反応がない。それで試しにドアを開けてみたら鍵かかってなくて家の中に入れたんだよ。

その家は平屋建てだったんだけど、囲炉裏やかまどがあった。祖父母の家にそんなのなかったから驚いたけど、クモの巣が掛かってるんだ。

床は綺麗なのにまるで誰も暮らしてないかのように、タンスとかも同じようにホコリ被ってた。

「誰かいませんかー?」

と聞いても誰も出ないし、電話もない。

さすがに怖くなって帰ろうと思ったら鈴の音が真後ろから聞こえたんだ。ギョッとして振り向いたら髪の長い若い女の人がいた。

その女の人は村でも見たことない人で、着物を着た日本人形みたいな美人だったね。でも当然子どもの俺はヘビに睨まれたカエルみたいにビビっちゃって動けない。

そんな風に固まってたら女の人が急に俺のポケットからボールを奪ったんだよ。その人はボールをジーッと見たと思ったら、少し微笑んで俺の頭をなでてきたんだ。

そこまでしか覚えてない。

気が付いたらさっきまで遊んでた野原で寝ていて、ポケットにはボールがちゃんと入ってたけど、ボールに書かれたはずの名前がなぜか消えていた。

そのまま家に帰ってこの事を祖父母に話したら二人とも顔を真っ青にして、俺を車に乗せて、俺が迷い込んだ山のふもとにある社に連れて行って何かを納めた。

「ごめんな、ごめんな」

とお婆ちゃんが俺に謝ってきたのは衝撃的だったし、赤顔の爺ちゃんが顔面蒼白だったことは今でも覚えてる。

それで爺ちゃんが死んだ通夜の時に村長さんから聞いたんだけど、この村では昔、山姫が子供をさらって食っていたらしい。だけど、旅のお坊さんが制し、この村の守り神にした。

でも完璧に倒したわけじゃなくて、山姫が名前の知らない子は守らなくて良いから、だから食べても良い事になってしまった。

お社に名前を納めるのは食べられないようにするためで、昔は口減らし目的でわざと納めないこともあったとか…。

だからこの村では子供が生まれたり、村の外から子供が来たら、必ずその子の名前を書いた人型の紙を、山のふもとのお社に納めないといけない決まりになっている。

もしそれをしないと、その子が山姫(社に祀られてる山の神様)にさらわれて食われてしまうらしい。

俺の場合、半分さらわれかけてたらしいけど、ボールに書かれた名前があったおかげで山姫が俺の名前を知れたから、帰す事にしたんじゃないかな、と推測されました。

ちなみに山姫は名の知らない子を食べる神だけど、名を知った子や村人に恩恵を与えることもあるようで、俺みたいに迷って山姫の屋敷にたどり着いた山師が馬小屋の馬に乗って逃げ帰ったところ、大変な名馬でお殿様に褒美を頂いた話があったり、病気の子の枕に立って病気を治したなど、その村の人に慕われてる神様には違いないみたいでした。

俺も頭をなでられた日からすぐに、今まで不仲だった両親が離婚せずにすみ、今も両親と暮らしてます。

これも一応、山姫のご加護なのかなあ?


引用元:https://toro.5ch.net/test/read.cgi/occult/1329016545/