地獄
12/02/02
ありふれた怪談話のようですが実話です。

父は憑依体質というか、毎晩のようにうなされる人だった。

対して母はまじない師の家系だったからか、そういうのを跳ね除ける人。父がうなされても、母が胸あたりをペシッとすれば収まっていた。

大雨が続いた秋だったと思う。

ある夜から父が尋常じゃないうなされ方をするようになった。金縛りにあい、家中に響くような大きな声でうなる。

半月ぐらいたった頃、金縛りにあった父がふと横を見ると、そこには白装束の老婆があちらを向いて横たわっていた。いよいよ見えるようになってきた。

父は日に日にやつれていく。

ある夜。すさまじい唸り声が父の寝室から聞こえた。起きていた私は寝室のドアを開けようとしたが、頭の中で警報というか

「開けるな!」

という声を聴いたような気がして、あわてて風呂にいた母を呼びにいった。

母はすぐに出てきて、寝室のドアを開けた。その瞬間、私は見てはいけない!と反射的に顔を背けた。父は白目を剥いて悶えていたらしい。

母が頬を張って叩き起こすと、真っ青ながらも正気に戻ったようだ。

翌朝父は、寝室のタンスのガラス戸から、あの老婆がぬう~と出てくる夢を見たと、震えながら語った。

当時、私はキョンシーのグッズにはまっており、お札に悪霊退散と書いて念を込め、そのタンスのガラス戸と、窓の方に貼った。

次の日父は久しぶりにうならなかった。しかし次の夜、最大の恐怖がやってくる。

父は寝ていながらも、家全体の事が見えたらしい。寝室の外から、老婆が入ってこようとしていた。

しかしその位置にはお札がある。
タンスのガラス戸からもダメだった。

そこでトイレ側の窓をぬっと通りぬけ、物凄いスピードで寝室の戸をすり抜け、父の方へ…

その夜、凄まじい父の叫びが響き渡った。

いよいよ尋常じゃないと、何でも見えるという、この地方の言葉では「ほっしゃどん」という霊能力者に見てもらうことになった。

その方は、確かに父に老婆が憑いているといい、なんとその老婆の名前を口にした。父はその名前に覚えがあった。

昔近所に住んでいたおばさんで、小さい父を色々と可愛がってくれていたそう。

ほっしゃどんが言うには、

「あなたに救いを求めている。墓を見てみなさい」

翌日、親戚の方に了解をもらい墓を見に行った。墓の中で遺骨は、骨壷にも入っておらず、ただバラまかれ、長雨のせいで水に浸っていた。

なぜそんな状態だったのか、老婆には子供や旦那などがいなかった。つまり一人っきりだった。

なので亡くなった時、一番近い親族のTが葬儀をしたのだが、Tは骨壷すら惜しんだ。

このTは有名な守銭奴(しゅせんど)で、老婆の財産なども根こそぎダマし取ったり、ひどい事をしていたそうだ。

墓は別の親戚に頼み、その帰りに父と母はTの家付近に寄って言った。

「自分に頼られてもどうしようもない。恨むなら、このTさんを恨んで下さい」

翌日から、父の霊障はなくなった。

数ヶ月後、Tは脳溢血で倒れ半身不随となり、その後まもなく亡くなった。

私達家族は因果応報の怖さを噛み締め、長かった恐怖が終わった事を感じた。

これが我が家で一番怖かった霊体験です。父はなまじ霊感があったせいで頼られたようです。