動物の逆襲
11/09/28
【狩られる6人】

俺がバーで占い師兼店長代理をしていた、15年ぐらい前のお話。

確かお盆あけだったと思う。バーの常連さんたちで肝試しをしようという話になった。

いろいろ特定されそうだが、場所は犬畜生の霊山的な山。

まだ携帯電話なんて普及していなかったので、有事の際の対処をあらかじめ取り決め、バーが休みの日の21時に出発。

一号車運転手:Aさん
助手席:男
後部座席:女2

二号車運転手:バーテンの兄ちゃん
助手席:俺
後部座席:女2

この時間になると山道はほぼ無人状態で、幸いにも珍走団の肝試しとも被らなかったので順調に慰霊碑を目指す事ができた。

月明かりにも恵まれ、道中は比較的見晴らしが利いた。

山の中腹あたりにさしかかったとき、バーテンの兄ちゃんがけげんそうに俺をチラ見した。

兄ちゃん「Aさんの車(一号車)、速すぎません?飛ばさなくていいのに…」

絶対安全運転も取り決めの中に入っていたし、一号車運転手のAさんの大人しい性格からして、同乗者にのせられて無謀運転しているとも思えなかった。

しかし、一号車のテールランプはあっという間に見えなくなってしまった。

山道のカーブで一時的に見えなくなっただけだろうと考えていたが、山頂につくまで一号車を見る事はなかった。

頂上までは一本道で(山頂を超えて先への道はある)、途中に車を潜めさせられるような場所はない。

なのに、後続の二号車の方が先に目的地に着いてしまった。二号車の面々が戸惑っていると、かなり遅れて一号車が到着した。一号車の面々も戸惑っていた。

Aさん「さっきまで後ろ走ってたのに、いつ追い抜いたの??」

まとめると、こうなる。

一号車:ずっと後ろに二号車が見えていた。安全運転で飛ばしていない。

二号車:一号車にぶっちぎられて見失い、後続なのに先に着いてしまった。

Aさんは信頼できる人だし、何よりAさんは、一号車の女性の一人に好意を寄せていたので、危険な運転をするはずがなかった。

俺とバーテンの兄ちゃんは互いに目配せすると、

「びっくりだね!」

「狐にだまされたかな?」

などとおどけながら全員を目的地の慰霊碑まで誘導し、記念撮影を行った。(デジカメなんてなかった。現像した写真にも特に問題はなかった)

そろそろ帰ろうとなった時、兄ちゃんが小声で俺に

「帰り道、ヤバいかもですね」

と言った。

俺もそう思っていたので、こっそりとAさんに“帰り道、出ると思いますけど、動揺しないで平然とね”と伝えた。

Aさんは動揺したが、彼女を安全に帰すためですよというと、妙に決意を固めた目で強くうなずいた。

帰り道も一号車、二号車の順で出発した。先ほどの中腹あたりにさしかかったとき、出た。

兄ちゃんがバックミラーと俺を激しくチラ見し出したので、後部座席の二人に話しかける振りをして後ろを確認した。

二号車に追いすがるように、とんでもないスピードで走る人が6人いた。6人は推定日本人で、年齢も性別もバラバラ。着ている服は最近のものに見えた。

6人は全員悲痛な顔をして、二号車に助けを求めるように手を伸ばしていた。その6人の背後から、無数の動物がとんでもないスピードで迫って来る。

動物の群れは犬猫はもとより、牛や馬、熊もいた。

正直俺は、”うへぇ…”という感想しかなかったが、幸いな事に後部座席の女二人は何も気づかず、楽しそうにしゃべっている。

俺が女二人と話しを合わせながら、二号車の後ろを見ていると、追いすがる6人の最後尾の一人が動物の波に飲み込まれた。

動物たちは立ち止まると、飲み込んだ一人を集団で攻撃しだし、視界から遠のいていった。

まだ二号車に追いすがる残り5人が、明らかに安堵の表情をしたが、動物の波はすぐに視界に現れた。

その後動物たちは、一人飲み込んでは攻撃し、再び追跡するを繰り返した。

とうとう最後の一人が波に飲み込まれた後、動物たちは俺たちを追っては来なかった。俺は後ろを見るのを止め、兄ちゃんと黙ってうなずきあった。

集合場所のコンビニで一号車と落ち合うと、Aさんはニコニコしながら”何も出なかった。脅かさないでよ”と言った。

一号車を追い抜いたのはなぜか、それはわからない。ただ、あの6人は生前、動物にひどい事をしたのだろうと思う。

犬畜生の霊山に閉じ込められ、許されるまで動物たちに責められるのかもしれない。