山、女性
15/07/04
今三年ぶりくらいに高熱が出て、療養にも飽きて暇なんだ。

趣味といえば単独で山に登ることくらい。あまり大きな声では言えないけど、廃墟巡りとかね。

数年前のことなんだけど、その日もいつものように自宅からクロスバイクを使って、山の入り口ギリギリまで行きザックを背負って入山。

二時間くらい歩くと、山道がやや険しくなる。人も全くいない。道標となる樹に結びつけられた赤いテープも、倒木と共に行き先を不明瞭にしてる。

鎖場とまではいかないまでも、岩が多くコケが生い茂り、全身緑に包まれるような感覚に陥るんだよ。

そこいらまで行くと、川も澄んでいる。岩伝いに渡ろうとした時、ある女の人と出会った。

なんというか、不思議な服を着ていた。ローブっていうのかな?一枚の布を繋ぎ合わせたようなやつ。

まず思ったのは、コスプレイヤーかなにかか?と思ったんだよ。俺は廃墟にも行くので、コスプレに興じている人を何人か見たことがある。

でもここは山だ、女性一人ってのも謎。装備もなにもない。なにより驚いたのは、外国人だったってこと。まぁ驚いたのなんの。

家から近いこともあり、たまにその山に行くが、そのルートで人と出会ったことは皆無といっていい。

おまけに美人なんだよ。中東系の顔立ちで、20代後半から30代前半くらいの風貌。青い目が印象的だった。

しばらく惚けてたんだけど、とりあえずあいさつをした。

山行く人はわかると思うけど、すれ違う時よく「こんにちは」って言うよね。日本語が通じるかもわかんなかったが、とりあえず会釈しつつ言ってみた。

流暢な日本語で返答があった。

あいさつしたからかわかんねーけど、女の人はものすっっっごい笑顔を浮かべたんだよ。暖かみのある笑顔だった。コミュ障だけど、なんとなく話しやすい人だと思った。

いろいろ質問したいとこだけど、何より山に一人の女性という状況はあまりよろしくない。

迷ってるのかもしれないし、もしよかったら一緒に下山しますか?って言ったんだよ。すると女の人は静かに首を横に振った。

女の人はほとんどしゃべらないし、うなずくだけだったから会話という会話でもないが、居心地の悪い無言じゃなかった。何度も言うが、優しさオーラが半端なかったんだよ。

俺はザックを降ろして、ちょっと質問してみた。完全に興味本位で。観光客が来る場所でもないし、先ほどの流暢な日本語で日本が長いのだろう。と思った。

ここで何をしているのか?

どこから来たのか?

コーヒー飲みますか?

ここで何をしているか。については正直よくわからんかった。これから私と出会う人は増える。だの、求められたから来ただの。悪の道に落ちた人類がうんぬん。

正直聞いてて、あ、この話難しいしちょっと電波だ。と思った。その時点で俺の中ではコスプレイヤー説が有力だった。

どこから来たのか。は返答はなく、人差し指を上に立てただけだった。山道を登ると京都に繋がっているので、たぶん京都から来たんだろう。

んで俺の山での一番の楽しみ、コーヒーを一緒に飲むかと進めたが断られた。ちょっとショックだった。

孤独好きなら逆に迷惑かなと思い、そろそろ行こうとした時、女の人に不意に呼び止められた。

次はいつここに来ますか私は待っています

ちょっと怖くなったが、邪気のない笑みにやられた。また来ます、と言いその日は別れた。

ちなみに帰りには、女の人はいなかった。俺は京都方面に向かい、そのまま引き返したのにすれ違うこともなかった。

翌週行ったら、また同じ場所に女の人はいた。二回目だが、会うや否やポツポツと勝手に話し始めた。

覚えてる限りだけど箇条書きする。難しい言葉とか言ってたけど、よくわからんのは聞き流した。

大陸の勢力が力を増す。獅子が倒れる。この国は迫る滅びに恐怖する。

しかしはっきりわかるのは、こちらが光であるということ(強調してた)。

どのような状況になったとしても、悪に屈してはなりません。悔い改めることを軽んじなければ、光は常にあなた方の側にある。

んで笑顔に戻って、できる限りたくさんの人に伝え広めなさいって言った。そんな電波な内容言えるかよ!って心の中で突っ込んだよ。

しかもおかしいのが、俺が名前名乗ったんだよ。そしたら知ってるって言う。

どうして?って聞いてもニコニコ。

対してあなたは?って聞くと、マサーってえらく発音良く言ってた。勝手にマサさんって呼んだ。

その日、帰って高熱を出した。夢の中でマサさんが手を振ってる。光の束の中を、エレベーターみたいなので上りながら。

風邪引いた時はありがちだと思うけど、感傷的になってものすごく悲しい気持ちになった。もうあの笑顔が見られない。

あの安心感を感じることができない。それが悲しくて、枕が涙で濡れてた。たぶん、もう会えないだろうと感覚的に思った。

それから何度か同じ場所に行ってみたけど、やっぱり会うことはなかった。

それがちょうど今から三年前。白い目で見られるのを恐れて誰にも言ってこなかった話。ネットならいいかと思いました。

今俺が熱を出してるのも、何かの前触れなのかなぁ。この風邪が治ったらもう一度行ってみようと思います。

長くて申し訳ないですが、これで終わりです。