洋館
15/06/12
これは5年ほど前、今の会社に勤める前に働いていた会社で起きたことです。

当時、私は契約社員で営業の仕事をしていました。

その日、担当している先輩が休みのため、代わりに私が、ある得意先の会社に書類を届けてくれと上司に言われて届けることになりました。

当時、勤めていた会社は雰囲気が凄くよく、契約社員であっても差別なく接してくれ、私も一生懸命働いていました。

先輩も上司の方も人格者であったので、言われた得意先が車で1時間半ほどの遠方だったのですが喜んでいきました。

ただ、自分は方向音痴+初めていく場所であったので上司が

「カーナビ付いている社用車で行って来い。」

と言ってくれて車に乗り込んで住所を設定し、言われた得意先の会社に持っていくことにしました。

得意先の会社は山間部であったため、平日だったのですが渋滞もなく、30分早く現地に着きそうな勢いでした。

高速道路から下りて国道から県道へとなっていったのですが、カーナビが

「次の信号を右折です。」

「次の●●峠方面、直進です。」

とカーナビの言われるままに進んでいきました。

ただ、得意先の会社は山間部でもそれなりの開けた場所に存在し、本当の山奥ではないと上司から聞いていたのですが、何分、始めていく場所ですので疑うことなく車を走らせました。

どんどん走らせていくうち、林道に入り、ついには未舗装の道を進んでいきました。そして、二股に分かれている道が出てきました。

すると、カーナビが

「次、右手に進んでください。」

と言ってきました。

ただ、私としては「あれ?」と思いました。

なぜなら、左側の道も未舗装なんですが、ちゃんと道としてあるのですが右手の道は草が鬱蒼と茂り、枯れ枝などが散乱して、明らかに何年も車や人が通っていないと分かるような状態でした。

立ち止まってると不意にカーナビが

「右です。」

と再度、音声案内をしてきたので、遅くなっても先方に失礼と思い右側へ進みました。

道と言ってもかろうじて道が存在していたのだろうと思えるぐらいのボロボロの道で、社用車が1台やっと通れるほどの幅しかなく、草をかき分ける音、枯れ枝を潰す音が凄かったです。

正直、車が潰れて動かなくなるのではないかと心配したほどです。

方向音痴であってもさすがに「これ本当に目的地に着くのか?」とさすがに疑問に思いはじめ、カーナビの設定を確認することに。

取引先の名刺をコピーしてくれて書かれてある住所を設定したはずだから間違えるはずないのですが、万が一の事もあります。

再度、入力複歴を確認するも名刺に書かれてある住所を打ち込んでおり、間違っていないことを確認しました。

「やっぱり間違えていないよな。」

と強く思い、正直不安がつのりましたが先を進むことにしました。

不安のまま進んでいましたが、かなり大きめの枯れ木が横倒しになっており、私は

「おいおい、これ本当に使用されている道か?」

とひとり言を言ってしましましたが、ふと、目線を奥にやると白い建物が見えてきました。

正直、不安と言うよりも昼間でも木々に覆われ薄暗かった道を進んでいったので怖さも出ていたのですが

「あの建物か!」

と正直、ホっとしました。

白い建物へ向かっていくとかなり立派で、大きな洋館であると分かりました。

「これは立派だな。中規模の会社だけどかなり業績を伸ばしている会社だと言っていたわけが分かった。」

と一人で勝手に納得していました。そして敷地に入ると同時にカーナビが

「目的地、周辺です。お疲れ様でした。音声案内を終了します。」

となり、車を止めれるスペースを見つけ駐車し、洋館へ向かいました。
白い洋館
(画像はイメージです。)

洋館の玄関にインターホンがあったのでボタンを押して

「ごめんください、●●会社の者です。上司の●●から言われてご契約内容の書類をお届けに参りました。」

上司から、担当が休みなので本日代わりの者が行くと先方にはちゃんと伝えてあると言われていたのですが、返事がありません。

もう一回、インターホンを押して

「ごめんください、●●会社の者です。上司の●●から言われてご契約内容の書類をお届けに参りました。」

と言ったのですがやはり返事がありません。

再度、インターホンを押すとインターホンに電源が入っていないことが分かりました。

電源が入っていれば、押した人間が分かるように「ピンポーン」と音がなるのですが、押しても「カチ、カチ」としか音がしません。

「設定した場所で間違いないはずだし、上司からの連絡は入ってるはず。何か立て込んでいるのかな?」

と思い、玄関から窓側の方に回ってみることにしました。玄関から横側に移動し窓を見てみると、驚いたことに窓に板が打ち付けられており、

「これって留守とかじゃないんじゃないか?」

と思いました。

そして、一か所、板が外れて窓がむき出しになっている所があり、そこから中をのぞく。

「なんじゃこれ!」と言わざるをえませんでした。

板が外れている窓から部屋の中を確認すると女の子の寝室のようなのですが、刑事ドラマとかで使われている規制ロープが張られていて、明らかに人型を取ったようなテープの跡が絨毯に残っており、何かしらココで起こったのは容易にわかりました。

私は恐怖で頭がいっぱいになり

「これ絶対、ヤバイって!ヤバイ!」

とひとり言を言って、上司の指示以前に自分は何かに巻き込まれたんじゃないのかと思ってしまいました。

そして、これは上司に怒られてもいいから引き返そうと車に向かったその時、女の子の声で

「フフ…アハハ……」

と聞こえてきたのです。

私はもう我を忘れて車に乗り込み、来た道を急いで引き返しました。

そして、最初の右折した信号まで戻ると地元の方がいたので、取引先の事をたずねてみました。すると知っておられ、場所を教えて頂いた。

お礼を述べたあと確認すると、自分がカーナビに案内された場所とはまったく違う場所だということが分かりました。

今度は電話番号で打ち込んでみると、先ほど行った白色の洋館ではなく、別の場所が表示され、本来の目的地に向かいました。

すると、得意先の担当の方が私がなかなか来ないのを心配して外で待っていてくれていました。

担当者の方も優しい方で、私が何度も謝罪すると

「1さん、大丈夫ですので気にならさずに」

と言葉をかけてくださいました。書類を渡して契約内容など、簡単に担当者の方にお伝えしました。

担当者の方から

「弊社は遠方ですので、1さんは初めてこちらにお越しですので道が難しかったですか?」

とたずねられました。

私は「申し訳ございません。ちゃんとカーナビに先方様の会社住所を打ち込んでたのですが、どういう訳か●●峠と言う所の、なんか古くて立派な白い洋館に向かってしまって…。」

と言った瞬間、担当者の方の顔色が急に真っ青になって

「え!?なんですって!?」

と声が震えて聞き返されました。

私は「そうですよね。まったく違う場所にいってホント、申し訳ありませんでした。社会人にあるまじき事でお恥ずかしいです。」

と言うと

担当者の方が「い、いや、そうじゃなくって……。」と言われて

私は思わず、

「どうされたんですか?何かマズイこと言ってしまったのでしょうか?」

とたずねると、

「いや、1さんに言って怖がらさせるとただの嫌味になるので…」

と渋っていましたが、正直あの白い洋館に行ったときの出来事が自分の中で強烈だったので私は

「あの、私も間違えてあの洋館へ行ってしまいかなり驚いたことがあるので、担当者さんには迷惑かけませんので教えて頂けませんか?」

と無理を押すと

「じゃあ話すけど、俺がここに勤める前の話で叔父から聞いた事なんだけど…」

と前置きされ(担当者さんは叔父さんの紹介でこの会社に入社したとの事)

担当者さんの叔父さんがこの会社に約40年前に入社してから、地元ではそれなりに名前の通った会社になったキッカケ。それが、何かと大規模な仕事を与えてくれた資産家の夫婦だった。

その夫婦に一人娘がいたそうです。

その娘さんは病弱であったため、都会で暮らすより空気のいい山間で静養させようと●●峠の山林を購入し、あの大きな白い洋館の別荘を建てたそうです。

そして、資産家夫婦と娘さんそして、娘さんより2,3歳年上の住み込みの女性のお手伝いさんと4人であの洋館で暮らしていたそうなんです。

あるとき、大事な仕事の取引があり夫婦そろって出かけなければいけないと言うことになったのですが、病弱な娘さんを残してとは思ったものの娘さんから

「お手伝いのお姉さんがいるから心配いらない。」

と言われお手伝いさんからも

「旦那さま、奥様が出られている間、私が責任をもってお留守番させて頂きます。」

と言われたのもあり、二人で取引のある都会へ行ったのだとか。

3日後、無事大事な取引を終えて別荘の洋館に戻ると、惨劇が待ち構えていた。

その夫婦が留守にしていた間、強盗が入り、一人娘とお手伝いさんを殺して金品を奪い逃走。

また、山間の奥に別荘が建てられていたため、夫婦が戻るまで殺人事件が起きていることは誰も気が付かなかったらしい。

警察や救急車を呼んでも時すでに遅く、手遅れ状態だったらしい。

犯人はすぐ捕まったそうだが、夫婦にとって一人娘を亡くす事は自分の死よりもつらく都会へ戻っていったのだとか。

しかしあの洋館を手放すこともできず、しばらく持っていたのだが、奥さんは心労がたたりすぐに娘の後を追うように亡くなってしまった。

旦那さんも病気で亡くなり、親族があの洋館を相続したが、そんな悲惨な事件のあった建物を必要とはせず、売りに出すも当然買い手がつかず、以来、ずっと廃墟状態で今現在にいたっているらしい。

そして、ひと通り話し終えると、担当者さんより

「厳密にいうと確かに弊社にかつて関係のあった方が住んでいましたが、場所も住所も違うのに何であそこに行ったんですか?」

と言われた瞬間、本当に怖かったです。
私は

「上司から御社の名刺のコピーをもらい住所を打ち込んで向かったのですが…」

と伝えると、確認違いで間違ってるかもしれないという話になり、担当者の方にカーナビの入力複歴を見て頂くと、やはりその会社の住所になっていました。

そして、恐る恐る複歴の住所を押すとカーナビが

「目的地周辺です。音声案内を終了します。」

と表示され、今私たちがいる位置を表示したのです。これには正直、私も怖かったですが担当者の方もおびえていました。

一応、帰路は無事に着くことが出来て問題なかったのですが、方向音痴な方もそうでない方もカーナビを信じすぎるのは禁物なのかもしれません。

時には自分の感覚で明らかに違う方向に言っていると思ったら引き返す判断も大事だと思います。

私の話はこれで終わりです

遅筆で文章力もない私の話に付き合って頂きましてありがとうございました。