通路
13/06/19
仕事を終えて、軽く引っ掛けて帰宅したわけなんですが、

自宅のあるマンションのエントランスに差し掛かったとき、エレベーターに青っぽい服を着た女性が乗り込みドアが閉まるのが見えました。

タイミングの悪さを呪いつつも、隣人と顔を合わせる気まずさを回避できたと解釈したのですが、そのエレベーターが二階に止まったものだから

「階段使えやダボ」

などと心の中で悪態をついていました。

エレベーターのドアが開き女性物の靴音が聞こえてきたのを確認し、エレベーターが下りてくるのを待っていたのですが、今度は上昇し、五階に停止しました。全くもって間の悪いことです。

しかし、今度こそエレベーターは一階に降りてきて住人と軽く会釈でも交わすのだろうと待ち構えていたのですが、エレベーターはまたも二階に停止しました。

不可解な出来事に多少戸惑いを憶えたものの、ようやく降りてきたエレベーターに乗り込みドアが閉まる間際に見えた住人を見てなんとなく納得しました。

おそらく二階でエレベーターを降り、階段で一階に下りてきたと思われる二人の男女(共に三十代なかばくらい)は両手にゴミ袋を持っていました。

うちのマンションのエレベーターはどこかの階で待っている人がいるとその階のボタンのランプが自動的に点灯するようになっているため、一階で誰かが待っているのを察知した彼らは、夜間のゴミ出しをとがめられるのを嫌ってわざわざ二階で降りたのだろうと、そう考えました。

自室のある、そして彼らが乗り込んできた五階にエレベーターが到着すると通路に一人の男が立っていたのです。

その男は上下白のナイロンジャージを着たチンピラ風の男でしたが、顔は確認できませんでした。

なぜなら彼は通路から階下を覗き込んでいて、彼がこちらを振り向いた一瞬しか顔が見えなかったからです。

しかも背後を振り返ったものの、不自然なほど素早く視線を階下に戻した様子は顔を見られることを嫌っているように見えました。

そして、彼が覗き込んでいる先にあるものは、ゴミ袋を持った男女が向かったであろうゴミ捨て場。

まるで男女を監視しているような様子と、視線を嫌うような態度からうっすらと恐怖を感じました。

足早に自室へと向かいましたが、私の部屋は通路の突き当たりの角部屋で、その先には階段もなにもないにも関わらず、男の足音が背後からゆっくり近づいてくるのを感じたとき、恐怖がはっきりしたものへと変わりました。

振り返って背後を確認したいけど、振り返れば何かが起こりそうで振り返れない。

そんなジレンマを感じながらも、男が歩速を早める気配もないため緊迫しながらも平静を保ったまま自室にたどりつき、素早く開錠、入室、施錠し、一息ついたのでした。

しかし、外の様子が気になりドアスコープから外を覗いてみると、ジャージ男が何をするでもなく私の部屋の手前くらいに立っていて、レンズの湾曲で正確に特徴をとらえられているかわかりませんが、今度は顔も見えました。

20代なかばくらいで黒髪の短髪でニヤケ顔。

恐怖感のせいかもしれませんが、ニヤケ顔から彼の暴力を好む性質が滲み出ているような気がしました。

ジャージ男はレンズを覗き込んでから五秒もしないうちに立ち去りましたが、視界から消えてから誰かと電話する声が聞こえてきました。

「もしもし、ご苦労さまです。」

そこまで聞き取れましたが、それ以降は声が遠くて、何度か

「はい」

「大丈夫です」

と言った部分しか聞き取れませんでした。

自身の安全を確保し、落ち着きをとりもどし体験した事を冷静に振り返ってみると、いくつかの事に気がつきました。

一つは、最初に私が乗りそびれたエレベーターに乗り込んだ女性と、ゴミ出しの二人組みの女性は同一人物ではないかという事。

最初に見た女性の服は青っぽい色、ゴミ出しの女性は紫色に見えましたが花柄っぽいミニのワンピースにデニムのパンツというのは共通していました。(よくあるコーディネートですが)

もう一つは、ゴミ出しの男女が持っていたゴミが不自然に多いという事です。

彼らは両手に一つずつゴミ袋を持っているように見えましたが、一人暮らし向けのワンルームマンションの一室が出すゴミとしては、例え二人で暮らしているにしてもその量は多すぎる気がしたのです。



140:13/06/19(水)13:33:16.35ID:MklsgmW50
都市特有の怖い話だね。ウシジマみたいな世界か?