不気味
09/05/08
彼女との同棲を始めることにしたので、不動産屋に紹介してもらい、千葉県船橋市にある木造2階建てのアパートの1階部分の端っこの部屋に入居することを決めた時の話です。

築15年の家だったのでそれほど状態は良くなかったものの、付近の相場よりも家賃が1万円近く安かったし、JRの駅から歩いて15分程度の場所ということもあり、一目見て気に入って、特に説明も聞かずに契約してしまったんです。

ところが住み始めて2~3日たったある晩に、隣の部屋の住人がとてもうるさいことに気がつきました。

深夜1時頃になると突然複数の人間のボソボソとした話し声が始まって、深夜3時頃までずっと続くんです。

最初はあまり気にならなかったんだけど、時々ドカッという大きな音がするので、それがきっかけで目が覚めて、その後は話し声が気になって気になって。

話し声の感じからすると3~4人くらいはいるようなんだけど、声は聞こえるのに言葉はまったく理解できないんです。

それで外国人かなぁと漠然と思い始めていたわけ。

男性の声の他に、時々女性の声も混じっているんだけど、すごく陰鬱な雰囲気のボソボソした声で。

こんな時間に女性まで混じって何の話をしているんだろう、という好奇心を掻き立てられるんです。

ただ、不思議なことに必ず深夜1時頃から話し声が始まるのに、入り口のドアを開けたり、鍵を開け閉めしたり、シャワーの音や、室内の引き戸をずらす音がまったく聞こえず、時間になると唐突に話し声が始まり、3時頃に唐突に静かになるんです。

これ以外の時間帯は生活感がまったく感じられないので、

「こいつら、いったいどこから沸いて出てくるんだろうね?」

と彼女と冗談で話したこともありました。

そんな生活が1ヶ月くらい続いていたんだけど、さすがに寝不足になってきてイライラし始めたので、不動産屋に注意してもらうことにしたんです。

翌朝、早速職場から不動産屋へ電話を掛けると、部屋を案内してくれた女性社長が出ました。

この女性社長は声がアニメ声というか、ちょっと特徴のある声なので、一度聞いたら聞き間違えようのない印象的な声なんです。

それで『あぁ、社長が出たんだな』とすぐにわかったんですね。

早速、深夜に大勢で話すのを止めて欲しいという件と、ドカッという物音を立てるのを止めて欲しいという話を伝えたのですが、

「あぁ、そ、そうでしたか…。やっぱり気になりましたか…。」

というような、どうにも歯切れの悪い返事が返ってくるのです。

『やっぱりってどういうことだよ』と思いつつ、少し不愉快になりながらも、とりあえず伝えたいことだけはきちんと伝えておくかと思い直しました。

それで

「たぶん外国人の方だと思うんだけど、夜間はうるさくしないように伝えてもらえますか?」

と話すと、取って付けた様に

「そ、そうなんですよ。なんだか外国からの留学生ということなんですけどね。どうも日本のマナーとかが、まだわかっていないようで…。」

という返事をもらい、続けて

「きちんと伝えておきますので…」

ということだったので、納得して電話を切ったんです。

その後、1週間程度は深夜になっても話し声が聞こえず、奇妙な物音もしなくなったので平和になったなぁと喜んでいた。

だけど、2週間目に入った頃から再び話し声が始まって、やはりドカッという物音で目が覚めたりするようになったんです。

それでも1ヶ月くらいはがまんしていたんだけど、気にしないようにすればするほど気になってしまうんですよね。

さらに良く聞いてみると話し声の人数が以前よりも増えているようなので、ひょっとしたら不法滞在の外国人が隣の部屋に集まっているのかなと思ったわけです。

そこで翌日の朝、職場からまた電話をかけたんです。例の女性社長が対応に出てくれたんだけど、

「あぁ、またダメでしたか…。それではこの後もう一度話をしてみますので…。」

ということだったので、

「なんだか以前よりも人数が増えてるようなんだけど、ひょっとして不法滞在の外国人が集まってるんじゃないですか?」

と伝えて、調べてもらうように話してから電話を切ったんです。

この日はたまたま彼女が体調不良で仕事を休み、アパートで寝込んでいたんだけど、午後3時頃になって唐突に隣の部屋の鍵をガチャっと開ける音がした後、例の女性社長の声、それから少し小さめの声だったものの、かろうじて男性とわかる声が聞こえたらしいんです。

何せ木造建築の家なので声や物音がある程度筒抜けになるんですよね。

彼女も最初から耳を澄ませていたわけではないようなんだけど、インターフォンを押したり、ノックする音がまったく聞こえず、いきなり外から女性社長をふくめた二人の人間が隣の部屋へ入って来たようなので、「あれ?」と気になったため、壁に耳を付けてその後の会話をついつい、盗み聞きをしてしまったとのことでした。

社長:先日やっていただいた方法では、どうも1週間しか持たなかったようです。

男性:う~ん、困ったな。これほどしぶとく出てこられてしまうとね…。

社長:隣の方も不審に思われてるようなので、なんとかなりませんかね。

男性:でもこれ以上貼ってもあまり効果がねぇ。

社長:これって隣の住人とかに影響が出ないんですかね?以前よりも増えてるみたいなんですが。

男性:たぶん大丈夫だと思いますよ。こちら側にはガッチリ貼ってありますから。だけど完璧かどうかと言われるとね…。何せ相手が相手だからね…。

そこまで聞いて「効果?」「貼る?」という会話や、「相手が相手」というにフレーズに嫌な予感がしたそうですが、この後、読経が始まってしまって確信したそうです。

隣の部屋はヤバイということに…。

彼女から即効で電話がかかってきて、いきなり「荷物をまとめているから」と切羽詰った声で伝えられました。

あまりにおかしな雰囲気だったものの理由を話してくれないので、心配になり会社を早退して帰宅。

事情を聞いて死ぬほど恐ろしくなり、とりあえず一旦双方の自宅に重要な荷物を運んでから、その日の夜はそれぞれの実家に退避。

引越し屋に依頼して、翌日完全に引っ越しましたよ。

結局なんだったのかよくわからなかったんだけど、隣の部屋のどこかから、何か「この世の者ならざる者」が深夜になると溢れ出てきている場所だったようです。