夜の会社
10/04/07
無職でヒマなので、前の会社(中小企業)での経験談を投下してみる。

おととしの冬のこと。俺は管理系の部署で設備担当をしてたんで、ちょっとした内装工事の立ち会いで事務所(テナントビルの5階)に日曜出勤してた。

朝から始まった工事が終わったのは夜の8時半ぐらい。冬だったんで外は結構暗かったな。

業者が後片付けして帰り、さて俺も帰ろうと戸締りの準備を始めた。

事務所は賃貸で、某警備会社の機械警備がついていた。警報装置をセットすると事務所内のモーションセンサーが作動し、人間が動いたりすると警報が鳴るシステム。

残業で帰れなくなった若手社員が会社に泊まったとき、他の部の社員が気づかずに警備をセットしちゃって、翌朝、若手社員がむっくり起きた瞬間に警報が発報、駆けつけた警備員に囲まれたこともあった(担当者の俺は管理事務所からメタメタに怒られた)。

俺は事務所の電気を消し、二ヶ所ある出入口の非常階段側のドアに中から鍵をかけ、事務所の対側のドアを出て、ドアの横にある端末に警報装置のキーカードを差し込んだ。その瞬間、

ドバァン!!

鉄製のドアが、内側から叩かれた。平手でビターンと叩いたような音。ドアが揺れるほどのすごい力だった。

俺は死ぬほど驚いて、うわ誰かいたのかよヤバかったなー、と思ったが、よく考えると日曜の夜だし、朝から事務所にいたが俺以外に出勤している奴なんかいなかった。

何がなんだかわからなかったが、ドアを細めに開けて中をうかがった。真っ暗だが人のいる気配はない。

少々パニクリつつもドアを閉めた瞬間、またバァン!バァン!と何かがドアを内側から叩きだす。

叩くペースがバンバンバンバンバンバン!!とあがってくる。そのうちドアハンドルが内側からガチャガチャ動かされ始める。その間もドアはものすごい勢いで叩きまくられている。

俺はもう「ヤバイ」以外に何も考えられず、警備端末からカードを引き抜いた。これでドアに鍵がかかり、警備装置が作動する。

ハンドルはガチャガチャ、ドアはバンバン叩かれガタガタゆれている。俺は泣きそうになりながら必死でドアを押さえていた。

一方、警備装置からは「まもなく機械警備を開始します…」という間抜けなアナウンスが流れる。

ドアを押さえていた手に、電気式の錠がかかる「ガチン」という感触が伝わった。

俺はガタガタ動いているドアから離れると、もう半狂乱で階段から逃げた。ドアを叩く音はまだ聞こえていた。

一階まで階段を駆け下りて、半泣きで管理事務所の警備員のおじさんに事情を話し、一緒に事務所に行ってもらった。

もう音はしない。5階についてみると、さっきのドアは外に大きく開け放たれていた。両開きのドアが両方とも開いたままになっている。電気錠のボルトがひんまがっていた。

警備端末を見ると作動したままなんだが、モーションセンサーの反応を示す赤ランプが点いていない。あれだけ中から激しく叩かれていたのに。

何がなんだかわからないまま、警備員さんに「中、入ってみましょうか」と言われ、事務所に入って照明のスイッチを入れた。

照明に照らされたドアの内側には、人が叩いたような手形の跡がびっしり光っていた。

結局、警備員のおじさんにも何が起きたのかはわからずじまい。俺は帰宅したが、一晩中電気つけっぱで朝まで眠れなかった。

そのビルは因縁があるような古い建物でもなく、幽霊話もそれまで聞いたことがなかった。

ドアから出ていったものがなんだったのか、いまだにわからない。