月
09/11/26
洒落にならないと思った話の一つ。

警備員をやってたんだが、ある日夜勤をやることになった。人気のない……それでも車は通るような道の通行止め。

周りは畑と木が植えられてるばかりだった。

一時を過ぎたころ、一台の車が正面から凄い勢いで走ってきた。こういう奴って大体ガラが悪くて絡んだりしてくるんで、俺も気を引き締めて道の真ん中に仁王立ちした。

あと二百メートルくらいのところで突然右手から人影がその車の前に飛び出した。がんっ、どさって音と急ブレーキの音が聞こえて、俺の全身から血の気が引いた。

警備員なのに注意出来てなかった俺も責任をとらされるかもしれないとか思うと怖くなってガタガタ震えた。車に乗ってた奴もあわてて出て来た。

ヤンキーみたいな感じで、たち悪そうなのにガタガタ震えて泣いてた。俺も持ち場を離れてその車に近づいた。

車の後ろにもう一台いたんだが、その運転手も降りてきた。車のフロントがべっこりへこんでいるのが見えた。

「被害者は?」

俺が聞くと泣いてた奴が首を横に振る。周りを見ても誰もいないどころか、血の後もなかった。でも間違いなく誰か跳ねた。

「老人ですよね?」

と後の車のおっさんがつぶやく。俺にもそう見えたから、うなずいてみた。でも考えてみりゃ、老人のわりに凄く早く車の前に飛び出してた。

「……男だった」

泣いてた男が俺を見ながら訴えるようにいう。

「ヒゲ面の変な服着た男…」

言われて見れば、浮浪者かと思うくらいばさばさだったのがスポットライトで見えてた。

後続の車から降りてきた人とも辺りを探したけど被害者はいなかった。結局そいつは泣きながら帰っていった。俺も持ち場にもどって暗い道を見続けた。

飛び出した場所は木はあるけど、道も住居もない。人がいたら気付く場所なんだよ。

朝方になって、ようやく思い出した。

その道、工事が中々出来なかったんだが、その理由が縄文だか弥生だかの住居後やら貝塚やら人骨やらが出たんだって事。

引かれた人が、老人だと思ったのは小さくて猫背だったからなんだよな。……車に飛び出した引かれたのは古い時代の住人かもしれないと思う。

抜け道でたびたび通る道だったが、これからは通るのは昼間だけにしようと思っている。

高そうな車をべっこりやっちゃった男がこわもてなのに泣きじゃくってたのは、かなり怖かったとも付け加えとく。