空家
09/07/13
俺が今までで唯一体験した話を。

3月の春休み中のことなんだが、友達が怪しいバイトの依頼を受けてきた。

バイトの内容というのがかなり妙な内容で、関西にある某政令指定都市で空き家になっている家の片付けをやって欲しいというもので、2泊3日で交通費以外に1人3万円も出るという。

目的の家は電気も水道もガスも通っており、2人分の布団もあるから宿泊にも何の問題もないとか。

これだけでもかなり怪しいのだが、友人がバイトを受けた状況というのが「パチンコにいったら常連のおっさんから頼まれた」というさらに怪しい内容だった。

友達は美味しいバイトだとノリノリで俺を誘ってきたのだが、どう考えても怪しすぎる。

当初断ろうと思っていたのだが、2日で1人3万円はおいし過ぎるし、ちょうどPCのグラボとHDを新調したかったので受ける事にした。

当日、新幹線のチケットや片付けの手順や現地までの道のりのメモをおっさんからもらい、俺達は某政令指定都市に出発した。

現地に着くと家はかなり広かった、敷地は300坪近くあっただろうか。しかし庭は枯れ草で埋め尽くされ、池は濁っていて生き物の気配すらない。

明らかに10年以上は人が住んでいない、外見は立派だが廃墟のような雰囲気の家だった。

その日はまず2階から片付ける事にして、夜の8時頃までゴミの分別や家具を1階に下ろす作業をし、力仕事が多く大変ではあったが、特に何事もなく終った。

近場のファミレスで飯を食い、家に戻ってくると何かがおかしい。上手く説明できないのだが、玄関を入った瞬間に全身の毛が総毛立つとでも言えば良いのか、なんともいえない悪寒に襲われた。

原因は全くわからない。友人も同じだったらしく、隣を見ると少し青い顔をしているように見える。

しかし特に何かがあるわけではなく、お互いその不安を全く口に出せず、そのまま風呂に入って寝る事にした。

寝てから2時間ほどたった頃だろうか、俺は友人に体をゆすられて起された。

「…なんだよ」

と文句を言おうとしたが、その時起した理由が何なのかすぐにわかった。

俺達は1階の玄関に近い場所にある居間で寝ていたのだが、ちょうど対角線上にあたる一番奥の部屋辺りから、人の話し声が聞こえてくる。

俺達はここに誰か来るなんて話はいっさい聞いていない。

かなり怖かったし、何かトラブルに巻き込まれるんじゃないかという不安はあったが、そのままにしておくような事も出来ないので、話し声のするほうを確認しに行く事にした。

(その時本当は廊下の電気をつけるべきだったのだが、俺も友人も気が動転していて全くその事を思いつかなかった)

暗がりの中を部屋の近くまで行き、俺が

「誰かいるんですか~?」

と何度か声をかけたのだが、相変わらず部屋からはボソボソと何を言っているのか聞き取れない。複数の話し声が聞こえてくるだけで、俺の声には全く反応しない。

そこで少し大きな声で呼びかけようとしたところ、友人が俺の口をふさぐと玄関の方へ引っ張って行こうとした。

俺は「なんだよ」と言おうとしたが、あまりにも友人が必死な形相なため、素直に玄関の方まで歩いていった。

そこであらためて友人に「何だよ」と聞くと、友人は震えた声で

「あの部屋…ドアに外側から板で目張りされてたぞ…どうやって中に人が入るんだよ…」

俺は近眼なうえに暗かったため気付かなかったが、友人が言うにはどう考えても人が出入りできるような状況ではない形で板がドアに打ち付けられていたらしい。

友人はかなりおびえていて、それは俺も同じだったのだが、不安を隠すように友人にこう言った

「きっと外側に入り口が別にあるんだよ、とりあえず確認しに行こうぜ」と。

玄関を出て家の裏側に行く事にし、草をかき分けてその部屋のあるであろう場所まで行ったとき、俺の「別の入り口がある」という希望的観測は無意味だった事に気がついた。

部屋には窓があったのだが、その窓にも外から板が打ち付けられており、他に出入り口らしきものもなく、どう考えても人が出入りできる状況にはなかった。

しかし外からでもボソボソとその部屋から話し声がするのはわかる。

俺は何がなんだかわからず、頭の中で合理的な解釈をいくつも考えたのだが、どれも当てはまらない。

どうしたらいいかわからず、しばらく2人で顔を見合わせていたのだが、このままではらちがあかないため、よせばいいのに板のすき間から懐中電灯を照らして中がどうなっているのか見てみる事にした。

2人で懐中電灯を照らしつつ中を覗いてみると、そこは普通の和室で、すき間から見ているだけなのではっきりとはわからないが、どうやら真ん中にテーブルが置いてあるようだ。

中に人がいるような気配は全くない。
何がなんだかわからない。

声はいつの間にか聞こえなくなっていたが、さっきまで明らかに複数の人の話し声が中から聞こえていた。

もう一度2人で懐中電灯を照らしながら中を覗き込むとある事に気がついた。テーブルの上に20cmくらいの箱が置いてある。箱を照らして見て俺達はゾッとした。

その箱は自転車につかうチェーンロックらしきものやクサリのようなもので何重にも巻かれていて、さらに何個か南京錠まで付いていた。

俺と友人は「なんだよあれ、気持ちわりーな…」と窓から少しはなれて話していると、突然

バン!

と内側から窓に何かがぶつかる音がした。びっくりして2人で窓の方を見たとき、俺達は叫び声をあげてその場から逃げ出した。

何が起きたかというと、板が打ち付けられた窓のすき間から、4~5人の「眼」が俺達を板のすき間から見つめていた。

性別や年齢はわからない、とにかくすき間から「眼」がいくつもこちらを見ていた。それだけしかわからない。

家から200~300mくらい離れた街灯のところまで走り、俺達が息を切らしてへたり込んでいると、叫び声を聞いたのか近所の人らしいお爺さんが

「こんな夜中になにをやってる!」

と俺達に話しかけてきた。

俺達は恐怖と息切れと動揺で「窓に眼が…」とか「話し声が」とか「バイトでそうじに来て」

とか支離滅裂な事を言っていたように思えるが、お爺さんはそれで何かを察したのか、急に口調が柔らかくなり

「とにかく家に来なさい、そこでゆっくり話を聞くから」

と素性も知らない俺達を家にあげてくれた。

おじいさんの家に着くとおじいさんの奥さんらしいお婆さんも起きてきて、俺達にお茶を出してくれた。

それで俺も友人もある程度落ち着き、バイトの依頼を受けて泊り込みであの家の片付けに来た事、夜中に変な声を聞いて調べに行った事、厳重に板張りされた部屋を覗き込んだらたくさんの眼に見つめられた事などを話すと、お爺さんは

「あの家は何十年も前に土地の権利関係で色々あったからな…お金はあきらめてお前達はバイトを断りなさい、今日は泊めてあげるから明日家に帰りなさい」

と言って来た。

お爺さんはあの家の事について何か知っているようだったが、それ以上は話してくれなかった。俺達は申し訳ないと思いながらも、その日はそのおじいさんの家に泊めてもらった。

翌朝、朝飯までごちそうしてもらった俺達は、お爺さんとお婆さんにひとしきりお礼を言って帰宅する事にした。

最寄駅までの道中、俺がバイトを依頼してきたおっさんに電話して、金は要らないし交通費も返すからバイトはなかった事にしてくれと言うと、おっさんはしきりに事情を聞いてきた。

隠す理由もないため昨夜あった話をすると、おっさんはひとり言のように

「まだ出るのか…」

というと、

「交通費はいい、でもバイト代は1日分も出せないからな」

「家の鍵は玄関マットの下に入れておいてくれ」

というと早々に電話を切ってしまった。口には出していなかったが、おっさんはかなりおびえていたのがわかった。

帰り際、俺と友人は「あの家で何があったのか」それだけは気になった。そこで携帯で図書館の場所を調べ、当時の新聞記事などを探してみたのだが、それらしき事件などはみつからなかった。

そこでふと思いつきで、今度は少し離れたところにある法務局へ行ってみた。

法務局であの家の土地の登記簿を調べてみると、そこには「1966年時効収得」と書かれていた。それで俺はあの場所で何があったのか、ある程度解った気がした。

終わり。