吊り橋
09/09/08
前に友達から聞いた話。

その友達は心霊スポット巡りが好きで、彼女を引き連れて2人で色んな心霊スポットを徘徊していた。

これは、とあるダムに行った時の話。
仮に友達をA、彼女をMとします。

そのダムは山奥にあって、周りには民家もないし、灯りひとつない真っ暗な場所。ダムの前まで車で行き、二人とも下車。

車のライトを消すと、下車するのを戸惑うくらい真っ暗。しかも物音ひとつなかった。あまりの静寂に耳が痛くなったらしい。

ダム自体の上面は、橋みたいな造りで、向こう岸まで続いている。向こう岸までの距離は50メートル以上。

とりあえず、その橋を渡って、向こう岸まで行ってみようって事になった。AとMは寄り添いながら、ゆっくりその橋を渡る。

やがて橋の真ん中辺りまで来た時に見てしまったらしい。Aの視界の右隅に人が立っている。橋の手すりの上に立っているようだ。距離にして3メートルくらい先。

恐ろしくて直視できないし表情も分からないけど、髪の長い女だと分かった。驚いてピタッと立ち止まる。

どうしたの?とM。聞かれた瞬間、彼女には見えていない事が分かった。自分にしか見えていない。

「もう戻ろうか?」

とMに言って、引き返す事になった。

引き返す途中も後ろに気配を感じた。あの女は手すりの上を歩いて、Aたちの後を付いて来ているのが分かった。

Aは走って逃げてしまいたいくらい怖かったが、気付かない振り、何も見えていない振りを通したかった。

それは、熊と対峙した人間が死んだ振りをする心理に似てるんだと思う。まぁ死んだ振りしても食われちゃうんだけど。

しばらく震えながら歩くと、後ろから女の声が聞こえる。

「見えてるの?」

Aは悲鳴をあげそうになるが、何も聞こえなかった振りをした。Mには実際に何も聞こえなかったようだ。

「ねぇ」

また女の声。

後ろからの呼びかけを完全に無視して歩く。いつしかその女は、Aの真横の手すりまで迫っていた。

しばらく歩くと、女は立ち止まり、もう付いて来なくなった。

Aは少しホッとしながら歩き続ける。見て見ぬ振りをして正解だったと思った。しかし予想もしない事が起こる。

静寂の中、背後で大きな音が響いた。ドボーンって音。プールに飛び込むような音だった。

Aは一瞬にして思った。あの女が橋の上から水面に飛び降り込んだのではないか?と。

「今の音、何?」

とM。Mは手すりから下を覗き込んでいる。Mにも聞こえた?って事は、あの女じゃない??そんな事をぼんやり考えつつ、Aも恐る恐る下を覗き込む。

あの女がいた。

水面から上半身を出した状態で、目を見開き、こっちを見上げている。そして目が合った。その瞬間、女はニヤリと微笑んだ気がした。

その時Aは思ったらしい。ダマされた。罠にはまった。と。きっと、あの女は認識したに違いない。「見えている」と。

やはりMにはあの女が見えないようで、水面を見回しながら、さっきの音の主を探し続けている。

Aは「Mは本当に見えないのか?」と半切れ気味に問いかける。Aの剣幕に、何も見えないMもおびえ始めた。

水面に目線を戻すと、あの女は、まだこっちを見上げていた。女の体が少しだけ浮いた気がした。ふわっと。

その瞬間Aは、Mの手首を握って、死に物狂いで車まで走った。女がふわっと浮いた瞬間、「来る」と思ったらしい。

それからドリフト族のごとく山を下り、少しでも人の多い場所を求めて車を飛ばした。

Aはそれ以来、心霊スポット巡りをしていないみたいだが、夜の海やプールはトラウマになり、気配を感じる時は、風呂にも入れないらしい。