ろうそく
10/07/08
親戚の家には仏壇が二つある。

向かって左がその家の亡くなったじーさんで、右が若くして亡くなったその甥のものだという。

ただ妙なことにお盆にお邪魔しても右側の仏壇は扉が閉まったまま。なにより、かさばるのになぜふたつ置いているのか気になったので、以前たずねると親戚が話してくれた。

じーさんは消防勤務で活発な人だった。人助けも大好きで、よけいなことにまで首を突っ込むような、ある意味人のよいお節介者だったらしい。

そのじーさんには可愛がっていた姪と甥がいて、よく近所の川に連れていっては遊んでやっていたそうだ。

上流に雨が降ったためか急に水かさが上がって、姪が溺れかけた際には自ら飛び込んで抱え、向こう岸に無事引き揚げた。

姪や家族が喜ぶ一方で、甥が自分もーとせがんだ。じーさんは笑いながら、そんな時に居合わせたら甥ももちろん助けるぞ、とアタマをなでてやっていたという。

数年後、甥が川の淵にはまった。同行していたじーさんは、助けを呼ぼうと主張する姪を岸に置いて水に入り助けに向かったが、すでに相当老いていた。

甥のもとにたどり着いたものの、しがみつく甥を支えきれず溺死。甥は他の人たちの手によって救助された。家族が甥の無事を喜ぶ一方、じーさんの死をいたんだが、甥は別段悲しむ様子もなかったという。

歳を取るにつれて盆の時期、お迎えをするのも甥はいやがるようになった。

親がそれを叱り付けると、じーさんは自分の力不足で勝手に死んだんだろ、と啖呵を切る始末だったので、それからは甥は抜きでやるようになったが、ほどなく甥は死んだらしい。

学校からの帰りが遅いので探しに出ると、川原で独り川に向かって、いかにもたのしげに笑っていたという。ひっぱたいても全く変わらず、ただケタケタと笑っているだけだったらしい。

入院してからは打って変わって表情をいっさい失い、食事も全く受け付けず半年ほどで亡くなった。

しかしそれから、じーさんの位牌と並べて安置してある甥の位牌が朝、倒れて畳に転がっていたり、仏間から何かを叩くような物音が頻繁にするようになったため、寺の坊主と相談の上で、仏壇を分けて安置するようになったという。

しかし何も盆の時期なんだし扉ぐらい開いてやったらいいじゃないかと言うと、親戚はうっすら笑って、同じ時期に弟には線香はたむけたくない、と言った。

また盆の時期がくる。生半可な墓地なんぞよりも、オレはあの家が怖い。