繁華街
11/07/29
通い詰めて仲良くなったキャバ嬢が突然店をやめた。やり取りしてたメールも途絶えて、完全に音信不通。

所詮水商売だし、向こうも本気じゃなかっただろうし、こちらも来年転勤すること黙ってたから、お互い様かと思った。

それにしても顔は本当にタイプ、スタイルも悪くない。性格はうわべだけで良く分からないけど、あいさつはキチンとできた。一回くらいはデートの誘えば良かったかもしれない。

向こうもカラオケとか食事を誘ってきたし、まんざらでもなかったかもしれない。

店に行って彼女のことを聞き出そうと思ったが、聞いたところでどうしようもないとあきらめた。それに仕事の引継ぎで、店に行く暇もなかった。

一年後、俺は先輩に誘われて、転勤先のとある街のキャバクラに行った。そこでかなり人懐っこいキャバ嬢と知り合った。

全然タイプではなかったが、相手は俺に親しみを覚えたらしい。どこかで会った?と怪しむくらい、俺の血液型や年齢などを言い当てた。

ネットで個人情報さらしてるわけでもないし、地元が同じだったり、親戚というわけでもない。そのコは店に行くたび、教えていない俺のことを話した。

最初は物珍しい感じだったが、親の話をされてドン引きした。そのコは俺の母親の名前と年齢をカンで当てたんだが、さすがに気味が悪くなった。

誰かがそのコに俺の個人情報を教えているとしか考えられなかった。新しい環境のせいもあったが、対人関係は慎重になった。

そこを紹介した先輩とも個人的な付き合いを避けた。

その後何事もなく半年ほどたったが、休みは一人で過ごすことが多くなった。その間ネットで彼女を見つけようとしたが、全然うまくいかなかった。

そんな休日、一人でふらっと映画を見に出かけた。

映画の後、シネコンの複合施設をぶらぶら歩いていると、突然あのキャバクラの女の子に声をかけられた。俺はすっかり忘れていて、相手を取引先の受付嬢と勘違いした。

そのことで彼女のプライドを傷つけ、というか本人がそう言ったのだが、フードコートで飲み物を奢ることになった。

そこで初めて、どうして俺のことが分かったのか訊いてみた。

すると「分かる人は分かる。分からない人は全然分からない。自分でも不思議」と、自分の透視能力を説明した。

どういうふうに分かるのか問うと、「霊能力かな」と答えた。彼女は見えるらしかったが、俺の場合とても良く見える、とのことだった。

「相手と話してる最中、頭にその人の家族とかがふっと浮かぶんだけど、あなたの場合音声つきなのよ。

男の人でたまにいるんだけど、たいがい母親とか奥さんね。生きてる人の方がパワーがあって、それが声になると思う」

つまり、彼女は俺に憑いている何者かと交信したらしい。だが俺としては心当たりが全くなかった。

「〇〇(某タレント)に似たタイプ。見た目はキャバ嬢ね」

タレントの名前を出されてピンときた。ちょうど一年半くらい前、突然連絡が途絶えたキャバ嬢が頭に浮かんだ。

その瞬間、目の前の彼女が「あっ」と声を上げた。何を言い出すのか見つめると、彼女がぽつり

「死んでたんだね」とつぶやいた。

「ええっ、死んだの?」俺はぼうぜんとなった。

「知ってたでしょ」彼女はあきれたような口調で言った。

「いや、知らない」俺は驚いた。

「交通事故だよね。今新聞記事みたいなのが見えたよ」

それはもしかしたらという、俺の恐れでもあった。

「ちゃんと彼女を送ってあげなよ。じゃないと、新しい彼女とかできないよ。女のカンで、絶対付き合ってる人いるって思うから」

どんな方法でもかまわない、相手に別れを告げるべきだ、みたいなことを言うと、彼女は連絡先も教えずにその場を立ち去った。

一人になって考えると、当時の俺は死んだ女性と暮らしていたらしい。

じゃあ今はどうかというと、実は良く分からない。部屋にいると、たまに誰かに見られているように感じることがある。

死んだ女性が自分から離れたかどうかは分からない。

ちなみに、現在も彼女募集中だ。