婚約者
16/09/28
バイトしてたカフェの常連のお婆さんが、やたらと贈り物をしてくる人だった。店長はいつも、ありがたくもらっとけ、と言っていた。

店長とお婆さんは、前からの知り合いだって話で、家族みたいだった。ある日、思いがけない場所で店長とお婆さんと会った。その日はあいさつだけして分れた。

後日事情を聞いたんだ。

お婆さんには孫が1人いた。勉強ができて優しくて頼りがいがあるんで仲間も大勢いた。

就職もすんなり決まった。大学時代の彼女と婚約していて、式場を予約してたのに亡くなってしまった。もらい事故だったそうだ。相手は、無謀運転の学生。

婚約者の女性は大きなショックを受けて、私はもう誰とも結婚しません、と言っていたらしい。周囲は、まだ若いんだからとなぐさめてた。

そして7年たって、彼女は死をえらんだ。遺書には、彼には叱られるとわっているけど、これ以上は耐えられません。と書いてあったそうだ。

彼女は、自分あてに花を予約していた。結婚式に使うような綺麗な花だったそうだよ。

詳しいんですね、と言ったら従姉妹だからね。と返された。

近所に住んでいた従兄妹で、小さい頃から兄妹のようにして育った。妹みたいに大事な従姉妹を、こいつなら幸せにしてくれるって確信があって、2人を引き合わせた。

結局2人とも死んだ。俺は周囲全部を不幸にしたんだよ。重くなってしまったな。すまん。誰にも言うなよ。店長はそう言って、ちょっと笑ってた。

双方の親族が話し合って、お婆さんの孫と婚約者だった女性は同じ墓に入った。

俺が会った日は、お婆さんと店長はそろって墓参りに行っていたそうだ。