バス

俺が小学生の頃の話。
ある年の2月半ば、親父の会社(○ヨタ)の部下が

「給料が貯まったので、そろそろ車を買いたいから係長(俺の親父)、探してくれ」

と言うので、俺は親父に頼んで、遊び半分で部下の買い物に連れて行ってもらった。中古車屋の店長は結構愛想のいい人で、特に部下が欲しがった車を見て

「あれは今半額にしてます。お買い得ですよ」

とベタ褒め。彼はその場で契約した。

半年後の夏休み。俺や両親が田舎に帰省する準備をしていた矢先、電話があって

「○○くん(部下の名前)が、郷里(きょうり)の長野で事故にあったそうです!!」

って緊急電話が入った。親父が入院先に向った時にはもう脳死状態だった。

田舎に帰省するため、バイクで国道153号を長野方面に走行中、ハンドル操作を誤って横転、逃げる間もなく後ろから来たバスに轢かれたそうだ。

左半身はつ〇れて目も当てられなかったらしい。でも21歳だったから、若さで数時間生きていたけど、結局日付が変わって間もなく亡くなった。

親父が一番可愛がっていた部下で、俺は初めて親父が泣いているところを見た。

結局、その年はその部下の葬儀や、台風などでスケジュールが合わなくなり、帰省は出来なかった。

しかも、秋には俺が学校で窓ガラスを割ったり母が貧血で緊急入院したりと、何かとツイていない1年だった。

次の年の2月、亡くなった部下が車を買った一年後に、部下の実家の両親がうちに手紙と写真を送ってきた。

実は部下が車を買ったとき、その店では車を売ったり買ったりしてくれた人を、記念撮影してくれるサービスがあって、俺と親父と部下の3人で撮影してもらってた。

その写真が届いたんだけど、親父は

「お前は見ない方がいい」

とこわばった顔をしたので、

「見せてくれたっていいだろ」

とせがむと

「じゃあ、父さんの横に来い。決して大声は出すんじゃないぞ」

と言うので、首をかしげながら写真を覗き込んだらもうビックリ。

真ん中に移っている部下の左半身がすっかり消えて、向こう側の景色が透けている。しかも店の横の道路には、こちらでは走っていない、見知らぬバスが写り込んでいた。

だから写真をそのまま見たら、部下に向って後ろからバスが突っ込んでくるみたいに見えたわけ。

そのバスはやや小さく写っていたので良く分からなかったんだけど、あとで聞いた話では、部下を轢いたバスと同じ型、同じ会社のものだったそうだ。

同封されていた手紙には、

「このバス、長野でしか走っておりません・・・」

って結んであったらしい。

その手紙はもう気味悪くなって間もなく母がこっそり処分してしまったけど、この事件は俺の生まれて初めての怖い体験だった。





転載元:死ぬ程洒落にならない話を集めてみない?