川

実家の近くに少し濁った川があるんだが、そこの生態系が色々とやばい。

何がやばいってフナやメダカといった普通の魚から、どこのどいつが放したのやらでっかいコイだの金魚だの、グッピーやバスの仲間まで泳いでやがる。

魚だけじゃない。ヤマカガシやマムシは土手の草むらに住んでるし、生えてる植物も外来種がほとんど。

夏が近づけばセミやカエルの鳴き声がやむ事はなく、秋から冬にかけてはトンボの群れが道を飛び交う。

去年休暇を利用して帰って来た時は、ヌートリアと川鵜(かわう)まで住み着いてやがった。

今じゃ珍しい自然の環境だ、なんて両親は言ってるけど、はっきり言って魔境です。業者の手が入らないのが不思議でならない。

俺も子供の頃はアミを適当に振るだけでトンボを大量ゲットできる事に喜んでたりもしたが、地元の大学を出て別の県に引っ越して、ようやく実家近くの異常さに気づいた。

で、数年前の事。夜中に自宅で寝ていたら突然金縛りにあった。

「やばい、目を閉じて何も見ないようにしないと」

と、反射的に思ったけど、指一つ動かせないのに、瞼だけは無理矢理に開けられていく感覚があった。

そして開けられた目の先、天井付近で蠢いてるそれを見た瞬間、俺は金縛りで悲鳴が上げられない事に感謝すると同時に、それでも無理矢理それを見せられたことを呪ったよ。

丑の刻参りってあるだろ、頭にロウソク付けて左前の白装束着て。手に金鎚と杭を持った奴。

あの格好をした女が、天井付近で「あ゛ぁぁ」とか「う゛ぅぅ」って呻きながら空中でのたうち回ってたんだよ。でも俺が怖かったのは凄い形相をしてる女じゃなくて、その女の全身に纏わりついてた奴らの方。

脳天から杭を突き出しながら、女の腕にマダラ模様のヘビが巻き付いていて、明らかに入らないであろう片足を、黒いコイみたいな魚がヒザまで飲み込んでて。

他にもバッタだのセミだのカエルだのが、頭や身体にウジャウジャくっ付いていて。もう何ていうか、怖い以前に気持ち悪かった。

女はしばらく呻き声を上げながら天井でのたうっていたけど、突然ぱっと身体が動くようになったと同時、いつの間にか消えていた。まとわりついていた生物ごと。

……もしかしたら助けてくれたのかもしれないけど、薄暗い室内であの光景は、相当心臓に悪い物だったという話。

でも、その一件以来1年に数回は実家に顔を見せてる。